No.19 生きてちゃいけねぇ女なんだ!
「……鬱陶しいですね本当に」
アスフィアが手を前に翳し、私達の真下に大きな黒い穴を出現させた。
ぐらっと視界が揺らぐ。
足場が消えた瞬間、私の身体は穴の中へと落ちていく。
「しまっ!!」
捕まる場所も踏み止まる段差もない。
落ちる私を、咄嗟に動いたブルーベルが助け出すーー
空気中の水分を瞬間冷凍させ、このシアタールームの天井に太い氷柱を作り出す。
これがブルーベル・パレットカラーの持つ『霊力』の能力だった。
『霊力ーー”ダイヤモンドダスト”』
直訳で『細氷』を意味するこの霊力は、周囲の気温を氷点下にまで下げる異能力だ。
その力で水蒸気を凍らせ、好きな形で氷を作り出すことができる。
「ったく!いきなりピンチになるな!」
ブルーベルは氷柱に刀を刺してぶら下がり、片方の手で落ちていく私を掴まえた。
「おわっ!ご、ごめんなさい……!」
「しゃきっとしろ!反撃だ!」
私を穴の外へ放り投げる。
うまく着地した私は、すぐに体制を整えながら、剣を構えてアスフィアとの間合いを詰め寄った。
大鎌はその長いリーチが特徴の武器であるが、逆に至近距離では効果を発揮できない欠点がある。
素早い踏み込みを見せた私に、アスフィアは怯える様子が無く、気だるいため息を吐いて呟いた。
「あー確かに早いですがーー」
タッと後ろに跳んだアスフィア。
自身の真後ろに大穴を出現させ、アスフィアは回避するように飛び込んだ。
「ーー動きが単調過ぎますよ」
「えっ!?」
私はすぐに剣を振るうが、既に飛び込んでいたアスフィアを捉えることが出来ず、大穴が煙のように空中に飛散した。
アスフィアを完全に見失い、辺りをキョロキョロ見渡しているとーー
「その首貰いました……!」
ーー声が真上から降ってきた。
「……!?」
反応して私が見上げると、そこには天井の大穴から出現する、大鎌を振り上げたアスフィアの姿があった。
すぐさま太刀で振り払い、アスフィアの大鎌を受け止める。
「おや、反射神経がいいんですね」
アスフィアは大鎌を一度離した後、素早く下から斬り上げる。
なんとか反応してみせる私だったが、受け止めた太刀は高く空に舞い上がり、次に繰り出したアスフィアの攻撃が激突するーー
「あっ!!」
大鎌の長い柄を使った突き飛ばし。
後ろに突き飛ばされた私を追い掛けるように、アスフィアが飛び込んで大鎌の刃を振り下ろす。
「そこまでです!」
「くっ!まだまだぁ!」
素早く受け身を取るように、手を使って地面を押して飛び上がる。
身体を反転させて向かい合い、紙一重で大鎌を右に躱しながら、太刀の鞘を使ってアスフィアを打ち叩いた。
バコッ!!
反撃のダメージは与えたが、所詮はただの鞘ーー
致命傷には程遠い攻撃だった。
「そんな棒切れで……勝てるつもりですか!?」
アスフィアは怒りながら、大鎌を回転させて再度私の首を狙う。
私がすかさず体制を低く落としてそれを躱すと、後ろから走ってきたブルーベルがその隙を狙った。
「悪いが勝つのは私達!お前は生きてちゃいけねぇ女なんだ!!」
刀に冷気を集中させ、一気に放つ一閃の鋭い突きを繰り出した。
アスフィアの左半身が凍てつき、ステージの外へ吹き飛んだ。




