No.14 主催者
「足元、というか辺り一面……”凍ってる”?」
季節はすっかり春だというのに、ジェットコースターレーンが凍り付いていた。
それに息が白くなる程寒い。
まるで冷凍庫の中にいるようだった。
「一体どういう事……?イースターとかやってるくらいだもん。今は春であってるよね?」
寒さで震えていたところで、真下からリバティの声が聞こえてきた。
「勝ったなら降りて来なさいレナー!」
確かにここで考えていても仕方なが無いーー
言われた通りレーンから飛び降りて、焦ることなく着地した。
「どうしたのリバティ?」
「……この高さから飛び降りて何食わぬ顔ですか。90メートルですよ?いよいよゴリラですね」
「殴られたいなら素直にそう言って」
「いやいやレナ。ゴリラのパンチは置いておいて、これを見てくださいーー」
リバティは笑いながら右を指差した。
そこには見覚えの無いーー謎の巨大”氷山”が造られていた。
「何これ!?」
リバティの挑発な台詞がどうでも良くなるくらい、目の前の巨大氷山が衝撃な物だった。
10メートルほどの立派な氷山ーー
ここに来る時には氷山は無かったし、そもそもこのイースターワールドにそのような建造物は存在しない。
「本物の氷ですね……この寒さもこいつのせいでしょうね」
「一体どうしてこんな所に氷山なんか……!?」
私は少しゆっくり近づいて様子を伺おうとしたーー
しかしリバティは、私の腕を掴んで警告した。
「それ以上近づくと、貴女も”彼”のようになりますよ」
「”彼”……!?っ!あぁっ!!」
リバティの言う”彼”が何を指した台詞なのか、私はすぐに理解した。
氷山の中に凍り付けにされ、そのまま息絶えた男の姿がそこにあった。
この氷山がこの男を殺すために造られた物だとするならば、今この場にいる私達の近くに、危険が迫っているという事になる。
「逃げようリバティ!!」
「勿論そうしたいですが……!」
「えっ……!?」
リバティと私が振り返ったその先に、黒いフードを被った男ーーマイル・ラ・ギャレットコートの姿があった。
「……ニシシ」
「お、お前……!」
私達を殺し、無理やりこの狂ったデスゲームに参加させた張本人。
フードを下ろして笑みをこちらに見せて言う。
「ニシシ……やぁ元気?」
「ニシシじゃない!ふざけんな!私を生き返らせろバカー!」
口調がかなり悪くなってしまったが、この際自分を殺した相手には仕方がない。
リバティがニヤリと笑いながら、銃口をマイルに向けて言い放つ。
「何の用ですか……!?」
「えー?」
「何しに来たのかと聞いているんです。ゲームの主催者である貴方が、もしや邪魔をしに来たのですか?」
「邪魔なんかしないよ……たださぁ、ニシシ……君らをそろそろもう一度殺そうかなぁって」
マイルは不気味な笑みを浮かべてそう言った。
「殺す……!?」
私はリバティの背に思わず隠れたが、リバティは動じずマイルに問いただす。
「我々を殺すと言いましたか……!?主催者の貴方が……!?まさにクソゲーですね!」
「まぁ俺は主催者でもあるんだけどさぁ……最後の10人目でもあるんだよねぇー!」
マイルが”天国と地獄ゲーム”が始まってすぐに言っていた。
このゲームには10人の参加者がいて、最後の一人になるまで生き残った人が勝つゲームだと。
「プレイヤー!?まさか主催者自らがですか!?」
すぐさま私とリバティは後ろに跳んで距離を作り、それぞれ武器を構えて警戒する。
マイルの言うことが本当なら、こいつも私達の”敵”で間違いない。
「あんまり早く死なないでね?俺もっともっとじっくり楽しみたいからさぁ」
余裕の笑みを浮かべて言う台詞だったが、私達ーー特にリバティは黙ってはいない。
人を小馬鹿にする嫌な性格の男だが、逆に人に馬鹿にされるのは我慢が出来ない。
「アハハハ!目ん玉えぐりまーす!」
リバティの顔が今まで見た中で一番の笑顔を見せていたが、想像以上に不気味な雰囲気を醸し出していた。
「へー?できるの?」
「こちらは二人ですよ!?逆に勝てると思ってるんですか!?」
「ニシシ……!ざーんねん!」
マイルが目を見開いて笑った直後だったーー
「そういうことですーー」
突如謎の声が私の真後ろから聞こえてきた。
透き通るような綺麗な女性の声ーー
振り返ると見知らぬもう一人の黒コートの女が、大鎌を構えて立っていた。
「ーー残念ですね。こちらも二人です」
ライトパープルカラーのショートヘアーで、スタイル抜群のとても綺麗な女性だった。
私の身体を真っ二つにしようと、渾身の横払いで大鎌を振るっていた。




