No.11 サクリファイス
「さてと……」
お花畑のど真ん中で、満月を見上げて一息ついていた。
私はリバティをその場に残し、作戦指示の通りに行動するーー
急いで離れる私を見送った後、銃を両手に構えて辺りを警戒する。
「レナに『霊力』の説明をしましたが……ここはレナを信じるしか手はありませんからね……」
ここは辺り一面美しい花壇に囲まれたエリアーー
本来立ち入り禁止区域であり、踏み入ればスタッフに厳重注意を受ける。
何故なら通れる道がなく、侵入するには花を踏み散らかすしかない。
「私だって花を散らせたくはありません……!さっさと済ませます……!」
この場を選んだ理由ーー
空でも飛ばない限り、必ず足跡を作って侵入しなければならない。
この場を離れた私は、リバティの作った足跡の上を通って移動した。
つまりーーいくら『透明人間』だろうと、自らが通る足跡を消すことは出来ない。
ザッザッザッザッ!!
駆け足のような足音と、不自然に現れた近づいてくる足跡に気がついた。
「……はいみーつけた!」
ズガン!!
足跡の上を狙って発砲。
すると命中した透明人間が姿を表し、声を上げて倒れ込んだ。
「ぐわっ!!」
そしてこの場を選んだもう一つの理由ーー
「せっかくの『インビジブル』も、使い手が馬鹿では宝の持ち腐れってやつですね」
「ば、馬鹿はてめぇだ!そんな銃声響かせて……ただで済むわけねぇよな!?」
奴の言う通り、音は第三者に位置を知らせる事になる。
しかしそれがリバティの作戦ーー
「だから馬鹿と言ったんです」
刹那ーー
ズタン!!
突如リバティの脳天を、明後日の方向から飛んできたライフル弾道が貫いた。
頭に風穴がしっかり開き、これで即死したかに見えた。
「はっ!バーカ!死にやがったざまぁ!!」
笑い転ける男だったが、すぐにリバティの異変に気が付いた。
「死ぬのは君ですよ?」
それは男の背後から聞こえてきた声だった。
「へっ?」
脳天を貫かれた目の前のリバティが、黒い影になって消滅ーー
そして男の背後に立っていたもう一つのリバティが、笑って銃の引き金を引いた。
「僕の霊力は『影』を操ります。その名もーー『サクリファイス』」
リバティの霊力の説明が書かれたパスポートには、『サクリファイス』の詳細が書かれている。
「なっ……!そんな……!」
撃ち抜かれた男が、ドサッとその場に崩れ落ちた。
『サクリファイス』とは、通称『犠牲』という意味を持つ。
「僕を守るもう一つの僕。僕の影が、僕のために『犠牲』となったのです」
もっとも影はライフル弾では消える訳はなく、何度だってリバティ自身を守るために『犠牲』になる。
そしてここに来たもう一つの理由ーー
「さて……今僕の影を撃って来た方向は分かりましたね……レナ」
※
リバティと透明人間の戦闘を遠距離から介入し、失敗に終わったスナイパーが焦りを感じて慌てていた。
長髪に青い眼鏡を掛けた、20歳前後の青年。
「なんだよあれ……!?チートかよくそっ!」
ジェットコースターレーンの一番高い位置ーー
リバティからかなり距離が離れているが、彼の持つスナイパーライフルなら射程内。
しかし失敗に終わり、急いでその場から離れようとしていた。
その時ーー
「みーつけた!狙撃手さん!」
大声を上げて青年の前に立ち塞がったのは、チケットを持って構えていた私ーーレナ・エンフィールドである。
「まさかっ!あの帽子の奴は囮か!?」
帽子の奴とはリバティの事だろう。
リバティの作戦は、敵にワザと隙を晒し、スナイパーの射撃を誘いーー私がそれを見つけ出す。
「そういうこと!あんたを倒して、私はママの所に帰るんだ!」
「ママだと!?はっ!女が調子に乗るんじゃねぇぞ!」
「私をただの女だと思わない方がいいよ……!伊達にあのキチガイと義理の兄妹やってないから……!」
数日更新遅れてしまい、皆さんにご迷惑お掛けしました!




