羽根は翼を探して①
デュオピタル皇国の侵攻。
七大翼を冠した七人のデュオピタルの将軍の猛威は凄まじく、連合軍はその戦線を維持し続ける事さえ危うく、どころか敗色を匂わせていた。
そも、国土の半分を連合軍と接するデュオピタルが侵攻を優位に進めるという非常識な強さと事態に、各国は戸惑いを隠せなかった。
各地で上がる大翼が灯した戦火のなかで、連合軍がとりわけ畏れた色がある。
『銀色』
七大翼の内、『銀燭の魔鴉』が灯す魔力の色だった。
彼の大翼が率いる『鋭き銀羽根』の猛威は相対した連合軍を瞬く間に呑み込み、恐怖と畏怖を振りまいた。
戦役で、もっとも戦場を染めた色こそが『銀色』だった。
――だから、『銀色』が戦場から消えたとき、皇国は侵攻を止めざるを得なかった。
その男が山間の村を訪れたのは、夕暮れに近い時間だった。
頬は痩け、目の下は窪んで隈が浮かんでいる。
格好だって惨めなものだった。
鋲が錆びたブーツを履いて、身体をすっぽり覆う煤けた布は足下から解れてしまっており、ほとんど襤褸だった。
畑の案山子だってもう少しまともな格好をしているように思える、貧相なやせぎす男だった。
ソレイユの配達人はつい二週間も前に訪れたばかり。であれば、流れのものか、それとも近くの魔獣を仕留めにでもきたハウルの傭兵あたりではと見当をつける村人たちに、男は疲れが滲んだ、厭世を思わせる声音で言った。
―― 共に戦った友人の忘れ形見を訪ねてきた ――
それが誰を示したものなのか、見当はついた。
同時に、男を訝しんでいた者達の目が、憐憫のそれに取って代わる。男の憔悴の理由が明らかになったからだった。
しかし、男の探し人は既に村には居ない、配達人と行ってしまった。
教えてやれば、男は目を見張ったあと、村の外へ向けて歩み始めた。
これから夜になる。
宿を提案する村人にむべもなく断りを入れた男は、何かに追われるように、歩みを進めた。
男はたった一人だ、それなのに、その後ろ姿はたったの一人であるにも関わらず、まるで死者の強行軍のように、不気味さと危うさを感じさせた。
男は進む、目的へ向けてひたと進む。
マントに見えたそのぼろ布の裏には、『銀の羽根』の旗章が隠されていた。