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転移国家日本  作者: 狐ン
第一章
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アリュータ王国防衛戦2

 大型モニターに映し出された光景に、リーレとアリシアは絶句していた。ドローンから中継された映像は、ミサイルの爆発によって耕された地面と、粉々になった人間が映し出されていた。


「ミサイル全弾、目標に到達!敵残党は、真っ直ぐ要塞に向かっています!」


 映像を監視していた隊員が叫ぶ。


 「よし!戦車隊前進!敵を要塞に近づけるな!」


 それを聞いた黒沢は、的確に指示を飛ばしていく。同時に、地球連合軍基地前方で待機していた12式戦車が、唸りを上げながら一斉に前進していった。要塞に配置しなかったのは、敵に作戦を悟られる事を避けた為である。もっとも、帝国側は、戦車を見てもそれが何をする物か分からなかったのだが。


 「す、すごい……!あのミサイルという兵器、魔法を一切使っていないのに、あれ程の威力が出せるのか!」


 リーレは、驚きと興奮の入り混じった声で話す。


 「あ、ああ。まさか、一瞬であそこまで敵を撃破するとは……。だが、あそこまで一方的では……。」




 これには、日本の力を疑問視していたアリシアも、日本の力を認めざる終えなかった。だが、好奇心旺盛なリーレと違い、アリシアは理想的な軍人であり騎士だった。その為、アリシアから見れば華やかでも無ければ騎士道の欠片もないニホン軍に、殺される帝国兵を哀れんでいた。




5分後 ミューレ帝国軍


 ラトラス率いる帝国軍は、要塞まであと3キロのという所まで来ていた。どういう訳か、先程の攻撃は行われていなかったが、そこに帝国兵の、ある意味では堂々とした戦いはもはや無く、生き残る為の全力の攻撃となっていた。皆、どこからともなく飛んでくるミサイルに恐怖していたのだ。


 しかし、彼らは気づいていなかった。先頭を走る奴隷兵には、最早意思はない。そのため、要塞全面に展開している戦車を認識する事も出来なかった。当然、軍の中央で指揮をとるラトラスや、奴隷兵の後ろにいる帝国兵達が戦車に気づく事も無かった。




 そして、要塞との距離が2キロを切ったところで、12式戦車の火砲が、一斉に火を吹いた。


 「なっ、なんだこの爆音は!?」


 その音を聞いて、ラトラスが驚きの声を上げる。その時にはすでに前方の奴隷兵達がなぎ倒され、耕された土を被っていた。直ぐに止まることの出来ないラトラス達は、その死体の上を進軍する事になってしまう。


 「くそ!何なんだあれは!あれだけの奴隷兵が一瞬で!まさかこれが……ニホンの強さなのか!?奴らは蛮族ではなかったのか!」


 ラトラスは、今まで感じた事のない恐怖と、騎士道の欠片もない無慈悲な攻撃によって、泣きながら進軍していた。


 その時、ラトラスの前方で爆発が起きた。12式戦車から発射された砲弾が、地面で爆発したのだ。爆発に巻き込まれたラトラスは、そこで意識を失ってしまった。




大陸暦4215年4月10日 アルカタン要塞


 戦闘の翌日、アリュータ王国、ローゼン王国と地球連合軍の間で、戦闘の後処理に関する会議が開かれていた。


 「では、今回の結果について説明したいと思います。」


 アルカタン要塞の一室で、黒沢は集まった者たちに説明を始める。部屋には、ホワイトボードが運び込まれ、全員に紙の資料が配られていた。既に大陸歴共通語への翻訳が行われており、全員が読めるようになっている。


 「まず、今回の死傷者についてですが、帝国軍が死者およそ10万、捕虜約10万人となっています。また、現在でも救助活動は続いており、さらに人数が増える予想です。」


 黒沢が説明する。地球連合軍の攻撃を恐れた帝国軍は、チリジリに逃げて行ったが、逃げ遅れた者や、反転してきた仲間に踏み潰された者が多くおり、被害が増えていたのだ。因みに、地球連合軍と、アルカタン要塞の兵に負傷者はいなかった。


 説明を受けて、ローゼン王国代表のガルドは、窓の外をちらりと見る。西側を向いた窓からは、担架に乗せられ、要塞内に用意されたベッドに運び込まれる帝国兵の姿があった。


 「質問です。10万人の捕虜はどうするのですか?10万もの捕虜を収容する施設はありませんよ?」


 ガルドが質問する。事前の協定により、捕虜の扱いは、地球連合軍が決める事になっていた。


 「ええ、ですから、地位の高そうな者を中心に、1000名程を捕虜とし、残りは帝国に帰還させます。捕虜の中には、敵の指揮官であるラトラス氏も含まれます。帰還させる者にはそれなりの警備を付けて、反乱が起こらないようにします。」


 「し、しかし、本当にそんな事が可能なのか!?帝国兵十万では、反乱を起こされたらひとたまりもないぞ!」


 黒沢の答えに、ガルドが焦って聞き返す。


 「問題はありません。万が一反乱を起こされても、それを鎮圧する装備は整えてありますよ。」


 「な、なるほど……。」

 ガルドは、黒沢の話を信じ切れていないようだった。


10日後


 「よし、出発してくれ」


 車列の最前線にいる装甲車の上で、黒沢は命令を飛ばす。それによって、捕虜輸送部隊が出発した。膨大な数の捕虜を車両に乗せて運ぶ事は不可能だった為、負傷兵のみをトラックで運び、その他の者は歩かせている。




 出発前、この事が伝えられると、捕虜側の帝国兵のみならず、アリュータ王国やローゼン王国、日本国内からも批判が上がった。しかし、輸送部隊には食料や医薬品を詰め込み、一日の移動距離も最小限に抑える事が伝えられ、なんとか事態は沈静化した。


 この輸送部隊は、捕虜の周りを戦車で囲い、その外側をトラックや偵察車両で囲むようにしている。これには、地球連合軍第45師団の車両の半分が使われた。残りの車両は、逃げた帝国兵の捜索と、彼らのゲリラ作戦に対応していた。






二週間後 捕虜輸送部隊のキャンプ地にて


 「アルース様、反撃作戦の準備が整いました。」


 捕虜の一人が、アルースと呼ばれた男に話しかける。彼らは、指揮官ラトラスの家臣たちであった。敵の攻撃によってチリジリになってしまった彼らだったが、ラトラスから最後の手段として伝えらていた作戦に従い、現在は身分の低い一般兵と偽っていた。


 彼らは、捕虜達による反乱を計画していた。深夜の警備が薄い時間を狙い、一斉に攻撃を仕掛けるのだ。既に、隠し持っていた隷属の聖水を食事に混ぜており、相当数の捕虜を操れる状態になっていた。


 彼らは、他の捕虜達の波に隠れて、じっとその時を待つのだった。




同日深夜


 始まりは、一本の無線だった。警備に当たってた一台の戦車から、緊急事態を知らせる無線が届き、その直後に無線が切れた。




 司令部が混乱していると、直ぐに同様の報告が上がってきた。慌てた司令部は、自衛の為に武器の仕様を許可した。しかし、既に手遅れとなっていた。




 「どうなっているんだ!捕虜の反乱か!」


 司令部が置かれた車両の中で、黒沢が怒鳴る。その顔には、焦りと混乱が見え隠れしていた。




 「ドローンからの画像です。戦車のハッチが開けられて、捕虜が群がっています。恐らく、中の隊員はもう……。」


 画像には、戦車に群がる捕虜と、それから身を守ろうとする隊員が映し出されていた。なかには、炎上する車両や、それを恐れようともせず、自身が燃えながらも攻撃してくる捕虜の姿もあった。それは、まるでゾンビのようだった。




 『クソ!こいつら人間じゃねえ!や、やめろ!くるなぁぁぁ!』


 『もう持ちこたえられない!戦車でもなんでもいいから、とにかく撃ってくれ!』


 無線からは、隊員達の叫び声が聴こえてくる。しかし、司令部は決定的な手段を取れずにいた。既に現場では捕虜と隊員が入り混じり、下手に戦車を使えば、味方を巻き込む可能性もあったのだ。




 「…………、全員後方に向かって走れ!1分後に全車両は攻撃開始!死にたくなければ逃げろ!責任は俺が取る!」


 覚悟を決めた黒沢は無線に向かって叫ぶ。それと同時に、味方が一斉に後退を始めた。この場にいる全員が、生きる事に必死になっていた。




 「残り5秒……3、2、1、撃てぇ!」


 そして一分後、戦車や装甲車から、一斉に攻撃が行われる。弾が当たった捕虜達はバタバタと倒れていった。そして、部隊は捕虜達との距離が10km離れたところで停止し、黒沢はアルカタン要塞と、日本政府に事態の報告を行なった。そして、アルカタン基地にに残っていたありったけの対地ミサイルを使い、捕虜達を攻撃した。しかし、全てを倒した訳では無く、アルース含め約1万人は国境を超え、帝国に戻っていった。




 この事件は、日本政府を震撼させた。何らかの原因で捕虜がゾンビのようになったと言うのだがら、無理もない。その後、これがアーティファクトによる物であり、超古代の魔法による物と分かると、日本政府は本格的に魔法の研究に取り組む事を決定する。




 また、恐怖の余り攻撃をしてしまった黒沢達は、日本国内で大きな問題となった。しかし、ゾンビのようになってしまった捕虜達の様子が公開されると、一転して彼らを擁護する意見が増えた。また、アリュータ王国や、ローゼン王国では、第45師団を英雄として讃えた為、政府も過度な処分をせず、黒沢師団長の停職のみという、非常に軽い処分に留めた。


 こうして、大陸歴4215年5月15日、部隊の撤退を持って、新世界での日本の初の戦闘である、アリュータ王国防衛戦は終わったのだった。

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