ローゼン王国
できるだけ人が死ぬ描写は書かないつもり。サクッと読めたほうがいいかなって。
大陸暦4215年 3月25日 ローゼン王国 ローゼリア城
日本が転移してから、3ヶ月が立とうとしていた。彼らと国交を結んでから3ヶ月、この期間は、ローゼン王国が歴史上最も変化した3ヶ月であった。
3ヶ月前、日本はローゼン王国と、ローゼン王国の西にある獣人の遊牧民が暮らす国、アリュータ王国に同時に接触し、双方と国交を結んだ。
日本が求めたのは、食料と資源の買い付けだった。日本からの食料の買い付けは膨大なものだったが、幸いローゼン王国の内陸部は肥沃な土地で、沿岸部では魚も捕れたため、なんとか注文に応える事が出来た。
アリュータ王国は、国土のほとんどが草原で、作物は余り育たない土地だったが、日本によると資源の宝庫らしく、既に採掘の準備を始めていた。この国は遊牧民が草原に住んでいたが、草原が広いため、彼らとの話し合いもスムーズに進んだのだ。
日本はこれらを貰う代わりに、インフラを輸出してきた。繋ぎ目のない石畳のような道路。鉄道と呼ばれる大規模流通システムや、より小回りの効く自動車。海水を真水にしてくれる装置。そして、それらを動かす為の発電装置。
これらが完成すれば、もともとローゼン王国は貿易も盛んなことも相まって、これまでとは比較にならない程発展を遂げるとの試算が経済部から上がっていた。また、アリュータ王国も、ローゼン王国を通しての貿易に期待しているとの事だった。
実は、これらはクリーンエネルギーを100%使用した国家運営のテストという意味もあった。元の世界で地球連合は、地球規模での温暖化対策を進めており、日本もそれに従っていた。しかし、2003年のチェルノブイリ爆発事件により、ヨーロッパに人が住めなくなってしまった経験がある為、原発建設などもっての他だった。幸い、輸出用の実用的な各種設備が整っていた為、作業は滞りなく進んでいった。もちろん、それをローゼン王国が知ることはなかったが。
ローゼン王国側は、各種技術の提供を求めたが、日本では地球連合が作った「技術流出防止法」を批准した事で、提供してもらう事が出来なかった。日本側の説明で、ローゼン王国側は地球連合の存在は知っていたものの、国家より立場が上の存在を上手く思い浮かべる事が出来ず、理解に苦しんだ事は言うまでもない。
他にも、ガスや水道など、まだ普及はしていないが、サンプルを見た経済部の担当者は放心状態になったという。
武器の輸出も求めたが、こちらも法律で禁止されているため、応じて貰えなかった。
どれも国の根底を覆すようなものばかりで、とてつもなく国が豊かになると誰もが思ったという。
「すごいな、日本という国は。我々の文明を遥かに超えている。」
ローゼン4世は、バルカに語りかける。
「はい。しかし、彼らが平和主義で助かりました。他国への侵攻が法で禁止されているとは……。あの凄まじい兵器で陸海空から攻めてくると考えると、ぞっとします。あの技術力で覇を唱えたらと考えると……。」
バルカは、僅かに身震いする。日本は、連合宇宙艦隊の存在をローゼン王国に説明していなかった。宇宙施設は転移していなかった為、日本は宇宙軍の運用を諦めていたのだ。もしそれの存在をバルカが知れば、今頃は失神していただろう。
「そうだな。だが、彼らの武器があれば、少しはミューレ帝国の脅威も下がるというのに……。」
ローゼン4世は、西に沈みゆく夕日を見ながら、そう考えるのだった。
2033年3月20日 地球連合東アジア州日本地区
この日、日本人は二度目の天変地異を味わう事になる。始まりは、政府の緊急記者会見だった。
「本日午前0時丁度に、国際月面基地ルナベース11との通信が回復しました。現在、ルナベース11は、二つある新衛星のうち、「大きい月」の地表にあると思われます。また、その35分後に国連宇宙艦隊所属の軌道基地、ステーション35及び、日本が所有していた宇宙ステーションかぐやとの通信が回復しました。地球連合との共同調査の結果、ステーション15に停泊中だった第106艦隊及び第15艦隊の船員を含め、役250名が宇宙空間に転移しました。」
この会見がされるやいなや、日本中が大騒ぎになった。また、補給の直前だった為に食料が足りず、このままではあと一ヶ月で船員が餓死してしまう事が分かったとたん、世論は圧倒的に船員救出に傾いた。
日本で国連宇宙艦隊の規格に対応したロケット打ち上げ施設は、世界レベルで見れば貧弱な設備の種子島宇宙センターと、商用宇宙港である大分宇宙港のニつしかなかった。その為政府は、偶然にも種子島宇宙センターに運びこまれ、すぐに使用可能だった軍用SSTO六機をフル稼働させ、3日後の23日にはピストン輸送を開始していた。これは、新惑星が大きさこそ違えど、地球とほぼ同じ重量を持っていたことや、急ピッチで月に至る軌道を探し出した航空宇宙開発省の職員の努力が実った結果であった。
こうして、日本は新たな戦力と、貴重な研究資料を入手する事に成功したのだった。
後日、日本から正式な発表がローゼン王国に行われたが、それを聴いたバルカが失神してしまったことは言うまでもない。
大陸暦4215年3月26日 ミューレ帝国 帝都ミューレスカ
マテリカ大陸北部に位置するミューレ帝国。大陸の4/1もの広大な領土を持ち、最強の軍隊を持つ国。ミューレスカは、帝国中部のやや北側に位置し、アリュータ王国やローゼン王国とは、数百キロにも及ぶ広大な原生林と、その先の7000メートル級の山々によって隔てられた土地にあった。
そのミューレスカで、重要な会議が行われていた
「皇帝陛下、今回の戦争で帝国はカタル王国を併合し、新たな鉱山を手に入れる事に成功しました。」
軍事部門の担当者であるウラルスは、皇帝であるミューレ12世に向かって意気揚々と報告する。カタル王国は、マテリカ大陸の西部にあった国で、良質な魔石が取れる事で有名だった。
「そうか、よくやったぞウラリス。あの魔石鉱山があれば、我が帝国はさらなる発展を遂げる事ができるな。」
「はっ。既に現地の帝国陸軍に、鉱山の調査を行わせています。」
ウラルスは、現状を完結に述べる。軍人ではなく、下級貴族のウラルスだが、その指揮力を買われて、軍事部門のトップにまで上り詰めた。だが、皇帝への忠誠心が高すぎて、撤退を全く考えていないといった批判も影で言われていた。
「うむ。して、ローゼン王国と、アリュータ王国の併合はどうなっている?」
「あの二国と帝国の間には未開の森が広がっておりましたが、帝国軍の活躍によって、巨大な軍用道路が完成しました。現地の奴隷を使用した事で、予定より早く完成しています。」
ミューレ帝国では、皇帝により認められた街の住民以外は、全て奴隷として扱われていた。幼い頃からこの環境に慣れているウラルスは、なんの感情もなく奴隷を使い潰したと報告する。
「うむ、あのような亜人や蛮族どもは、我が帝国の圧倒的な力を見せつければ、必ず怯むであろうな。いくら我が国と交流が無いとはいっても、その位の頭は持っているだろう。ようやく奴らを滅ぼす事ができる。」
皇帝は笑みを浮かべる。
「ところで、最近国交を結びに来たニホンという国はどうなっている?」
「はい、無礼にも我らと対等な関係を結ぼうと言ってきたあの国ですが、どうやら魔法を持たない蛮族のようです。軍隊も殆ど持っておらず、帝国の領土にする事は用意でしょう。ただ、帝国本土から攻め入るには、ローゼン王国を滅ぼした後になってしまうでしょう。クトロ島から攻めるのでは、山脈超えで無駄に奴隷兵を死なせてしまいます。」
日本は、ローゼン王国から帝国の概要を聞いていた為、帝国を刺激しないように、軍事力をあまり宣伝していなかった。そして、ミューレ帝国では戦争の勝ち負けは兵士の数で決まると考えられていた。この二つが合わさった結果、日本は魔法を持たず、兵の数も少ない蛮国と見られてしまったのだ。
「そうか。では一週間後に、アリュータ王国、ローゼン王国の順で攻撃を始める。準備を進めるように。」
皇帝の号令によって、会議は閉会した。日本、そしてマテリカ大陸の行く末を決める戦争が、密かに始まろうとしていた。