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転移国家日本  作者: 狐ン
第三章
26/27

ローゼン航空撃墜事件

大陸歴4217年5月10日 午前5時30分

エタシア列島 エタシア王国上空


「皆様、おはようございます。当機は間もなく、エタラシア国際空港に着陸いたします。空港周辺の天候は小雨、気温は22℃です。着陸時に揺れる事があるので、改めてシートベルトをご確認下さい。」

 暗くなっていた機内に明かりが灯され、アナウンスが流れる。それを聞いて、毛布を被って寝ていた乗客達が起き始めた。


 ローゼリア国際空港を飛び立った、日本の四ツ井重工製の中型ジェット機は、途中エルクキッシュ空港とオクトローン空港での給油を行い、22時間、21000kmのフライトを経て、エタシア王国の首都、エタラシアへ向かっていた。


 『こちら、エタラシア空港管制塔。着陸を許可する。』

 「了解。これより着陸態勢に入る。」

 高度は1000メートル程に落ち、早朝から仕事に向かう人々の姿が見えてくる。


 だがその時、機長は前から何かがやって来る事に気づく。

 「なんだあれは……、エタシアの竜騎士団か。どうしてこっちに来るんだ?」

 機長は、3騎のワイバーンが向かってくる事に気づく。

 「たしか今日は訓練飛行をするはず……。となると、トラブルで置いてかれたか。」

 機長はそう判断し、管制塔に連絡を入れる。


 「管制塔、こちらローゼン航空101便。竜騎士がこちらに向かってきている。進路を変えるように言ってくれ。」

 『こちら管制塔。問題ない。既に連絡済みだ。………いや、回線は繋がっているのに反応が帰ってこない!なにかおかしいぞ!101便、回避行動を取れ!』


 「了解した。すぐに進路を変える。」

 機長はすぐに操作を始める。

 『当機は緊急回避行動を取ります。強い揺れにご注意ください。』


 アナウンスが流れ、強い揺れとが機体を襲う。

 キャァァァァ!!

 飛行機に慣れないローゼン王国人が多かった為、機内は軽いパニックになっていた。


 だが、ワイバーンは進路を変えて飛行機を狙い、さらに速度を上げてきた。

 「時速400kmを超えてる!?まさか、最近輸入された新種のワイバーンか!」

 機長は急いで速度を上げるが、既に着陸態勢に入っていた事もあり、なかなか速度が上がらない。


 その時、ワイバーンの上に乗る兵士から光の弾が放たれる。機長は、それを見てとっさに、魔法による攻撃だと理解する。

 バス!バス!


 爆発魔法とは全く違う音が飛行機を襲う。それと同時に警報が鳴り、酸素マスクが落ちてくる。

 「機長!ワイバーンからの魔法攻撃で、壁に穴が空いています!!」

 その直後、キャビンアテンダントが飛び込んできた。


 その間にも、魔法攻撃は続き、穴は増え続けていた。そして、ついにエンジンに被弾してしまう。


 「くそ!制御が利かない!落ちるぞ!」

 みるみるうちに高度が落ち、地面が目前に迫る。


 ドォオオオオン


 ローゼン王国101便は、エタシア王国竜騎士団に所属するワイバーン3騎によって、攻撃され、エタラシアの市街地へ墜落した。


 この事件によって、飛行機の乗員乗客156全員と、墜落に巻き込まれたエタラシアの住人29人が犠牲となった。


3日後 エタラシア南部 エタラシア城前

 「国王は何をやってるんだぁ!!」

 「とっとと出て来て謝罪しろ!!」

 「軍の管理もマトモに出来ない国王なんていらねぇぇ!!」

 王城前の広場はデモ隊に占拠され、周囲を囲む近衛兵と一触即発の事態になっていた。普通の国なら皆殺しもあり得る状況だが、今回はまだ手が出されていない。その理由は、エタシア政府が置かれた状況にあった。


 「先程、ローゼン王国から正式に非難声明が届きました……。国王様に謝罪を求めています。どうもローゼン王はカンカンに怒っているらしく、既に貿易を停止する準備も進めていると……。」


 「ニホン政府からも説明を求められています。また、情勢悪化を理由に、我が国への支援を無期限で延期するとの事です。」


 外務大臣から、各国の対応が読み上げられる。それを聞いた国王の顔は、みるみる悪くなっていった。

 現在、王城では御前会議が開かれており、全ての大臣が集まっていた。


 「それで、今回の原因は何処にあるのかね、陸軍大臣。」

 国王は、陸軍大臣に鋭い視線を飛ばす。同時に、海軍大臣も睨み付けていた。しかし、流石軍人と言うべきか、いつもと変わらない声で話し始める。

 「責任は、我が陸軍に有るでしょうな。」

 それを聞いた国王の目つきは、さらに厳しくなる。


 「ただし、飛行機に攻撃を仕掛けたのは我が軍では有りません。どうやら、竜騎士の中に部外者を竜に乗せる手引をした物がいたようです。現在、数名の竜騎士が行方不明になっており、捜索中であります。」


 「責任逃れのつもりか!貴様らのせいで、ニホン海軍からの技術提供の話が無くなった!」

 海軍大臣が怒鳴る。


 「おい!ここは御前会議の場だぞ!醜い争いをするな!」

 すかさず、内務大臣が止めに入る。

 「まあ、我が国の置かれた現状は厳しいです。ニホンとのこれ以上の関係悪化を避けるには、広場のデモ隊の強制排除も厳しいでしょう。やれる事は、今回の犯人探しくらいでしょうな。」

 さり気なく外交に口を出された事で、外務大臣がムッとする。


 「そうか、各国への説明は私が行おう。陸軍は今回の事件の犯人を探し出すように。近衛兵には、デモ隊の鎮圧は避けるように伝えてくれ。」

 国王がそう宣言し、御前会議は終了した。


同日 日本国 首相官邸

 この日、首相官邸では緊急会議が開かれてきた。理由は勿論、ローゼン航空の撃墜事件である。


 「……という訳で、エタシア王国の情勢は急速に悪化しています。未だデモ隊の排除命令は出ていませんが、近衛兵が警備に当たっており、衝突は時間の問題です。また、先の撃墜事件によってローゼン4世はカンカンに怒っており、外交部を通じて、エタシア王国政府から納得出来る説明を受けるまでは、王国との貿易を全面停止するとの連絡が有りました。」

 外務大臣が報告する。


 「なるほど。まあ、貿易については良いでしょう。それで、港の防衛は大丈夫ですか?」

 ラシュ王国から衛星回線を通して参加している、首相が質問する。


 「単純な戦力なら十分です。しかし、暴動が発生した場合は極めて対処が困難です。エタシア王は我々を完全に信用してはいません。仮に暴動鎮圧を目的としても、ミサイルを打ち込んだりすれば今後の関係悪化は確実です。また、対人兵器については弾薬が不足気味で、充分に戦えない可能性があります。」


 国防大臣が答える。はっきり言って、今の日本なら何かしらの理由をつけてエタシア王国を占領する事は容易である。しかし、本国から数万キロ離れた土地で、国家全体の治安維持などという面倒な事はしたくないと言うのが本音だった。その為には、エタシア王国政府と良好な関係を築く事が必須である。


 「ですが、歩兵を中心とした治安維持部隊の派遣は必要だと感じます。おそらく、暴動がおきれば、確実に支援要請が来ます。また、仮に来なかった場合でも、基地の安全確保は必要です。」


 国防大臣の発言に全員が頷く。


 「分かった、では、海軍はすぐに出発してください。外務省も、王国との関係に何かあったらすぐに伝えるようにお願いします。」

 首相の締めによって、今後の方針が決まった。


大陸歴4217年5月12日 昼 エタラシア

 「さて、ゴーレム部隊の組織も完了。エタシア軍も3分の2以上掌握出来ています。5番、何か不足はありますか?」

 拠点としている民家の中で、2番はクーデターの最終確認を行っていた。


 「大丈夫、準備は万端だ。3番も軍のお偉いさんとの最終確認を終わらせたみたいだ。あとは、作戦開始時に俺達反体制派につかなかった奴を殺すだけだ。」

 5番は、荷物の確認をしながら話す。


 「分かりました。それと、先程依頼主から、ニホン軍の施設を攻撃せよとの命令が有りました。先に準備をしておいて正解でしたね。」


 「ああ。まったく、あの国の軍隊は無能だな。作戦直前に命令を変えたら、現場が混乱するって事を知らないのか?いくら何でも、戦争を舐め過ぎだ。」

 5番は、確認の為に床に広げた荷物を、やや乱暴にリュックに詰める。


 「まあ、無茶な命令にも従うのが我々です。事前の契約通り、クーデターが成功したら、金だけ貰ってさっさと逃げましょう。恐らく、港にいるニホン軍を助ける為に、増援を向かわせる筈です。今回の仕事は時間との勝負です。」


 「増援が来れば我々は数で負けるでしょうが、その頃には依頼主の軍隊が作戦を引き継いでいます。その後どうなっても、我々には関係有りません。」

 2番が話し終わる頃には、5番の準備も終わっていた。


 2番は、手に持っていた魔法通信機のスイッチを入れる。

「では、始めましょう。エタシア王国クーデター作戦、開始です。」

 こうして、新たな戦いが始まった。

次回から戦闘回です

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