日本の貿易
大陸歴4217年5月2日 アジュラバ砂漠大陸
ラシュ王国 カンカフ港
陸を見れば、地平線の先まで砂漠が続き、反対を見れば、真っ青な海が広がる。この2色しかない世界の中に、異様に近代的な構造物があった。
カンカフ港。この港は、日本とシオン王国間の、総延長4万5千キロにも及ぶ長大な貿易航路上に建設された港であり、防衛を担当する日本とシオン王国の管轄が分かれる位置にある重要な港である。ミューレ帝国戦争から一年が経ち、貿易に力を入れ始めた日本だったが、同盟国の中で最大の経済力を持つシオン王国までは遠すぎた。
その為、日本はこの糸のように細い生命線を守る為、チョークポイントとなり得る国々に積極的に働きかけ、次々と港を建設していった。航路が余りにも長い為、カンカフ港より先の1万キロの防衛はシオン王国に任せている。
カンカフ港の中心部。周囲を白いプレハブ小屋に囲まれた中庭で、カンカフ港開港の記念式典が開かれていた。
「それでは皆様。テープカットをお願いします。」
司会の合図とともに、用意された紅白のテープが切られる。
パチパチパチパチ
それと同時に、会場から拍手が沸き起こった。
現在、この場所には、各国の要人が集まっていた。
ラシュ王国 国王 ラシュ・キータ4世
シオン王国 外務大臣 アブラハム・イールス
オクトローン学院連合 外交科 大学科長 ノウロ・ロラリス
ローゼン王国 宰相 バルカ
「それにしても、凄い光景だな。まさかここまでの人が集まってくれたとは。」
目の前の光景を見て、日本の総理大臣である北条はそうつぶやく。
「何も起こらなければ良いが……。いや、何も起こらないようにするのが、私の仕事だな。」
北条は、誰にも聞こえないようにつぶやき、意識を式典へと戻した。
ローゼン王国 ローゼリア郊外 ローゼン国際空港
「凄えや。あんなバカでかい飛行機がこの国にやって来るなんて信じられねえ。」
第2滑走路の建設をしていた作業員が、既に完成している滑走路から飛び立つジャンボジェットを見てそう呟く。
「まったくだよ。ホント、ニホンと関わるようになってからは驚かされてばっかさ。俺の娘も、鉄道が開通したからすぐこっちに来れるって喜んでたなぁ。」
ショベルカーの運転をしていた作業員も、休憩がてらに会話に加わる。
彼らが作業をしているローゼン国際空港は、日本の全面協力のもとに建設されている、ローゼン王国最大の空港である。地球の仁川国際空港を参考にした造りになる予定であり、既に第一滑走路とプレハブの簡易ターミナルが完成していた。
この空港は、ローゼリアの周囲を囲む山を抜けた先にある沼地に建設されている。周囲は重要な穀倉地帯であるため、利用価値が薄く、周りに何も無いこの沼地が選ばれた訳だ。
日本はシオン王国までの航路整備と同時に、日本海沿岸地域の貿易にも力を入れていた。元々ローゼン王国とアリュータ王国からは大量の資源を輸入していたが、そのせいでモノカルチャー経済化が進んでいるとの報告が以前から上がっていた。
また国内では景気が良すぎる為に、過労死が社会問題となっている他、数年この状態が続いた場合、シーレーン近くの国で戦争が起これば日本は再起不能なレベルのダメージを受けると予測されていた。
とくに戦争については、日本が守れるのは糸のように細い地域であり、他国の戦争の影響を非常に受けやすい。これらのリスクに敏感になっていた政府は、日本海沿岸国に今まで以上の技術指導を行い、その過程で新たな産業を生み出す事で、この問題を解決しようとしていた。
こうした意図もあり、両国は一気に文明国レベルの生活を手に入れる事となる。
エタシア第一列島 エタシア王国 王都エタラシア とある民家
夜。繁華街から外れた小道を、フードを深く被った一人の男が歩いていた。男は、辺りに警備兵が居ない事を確認すると、コソコソと家の中に入る。
「ずいぶん遅かったな。2番」
家の中には、3人の男がいた。いずれも、明らかに一般人とは違う雰囲気を纏っていた。
「すまない。今日は警備兵が多くてな。怪しまれないように買い物をしながら来た。」
そう言って、2番と呼ばれた男は、リュックサックからジャガイモを取り出す。
「ゲッ、またジャガイモかよ。せっかく街に居るんだから、もっと旨いもん買ってこいよ……。」
座っていた男の一人が文句を言う。
「私達は傭兵です。依頼主からの無茶な命令にも答える為には、常に緊張を保っておかねばなりません。」
2番はそう言いながらジャガイモを切り、既に火をつけてあったストーブの上に乗せていく。
「まあ、焼くくらいなら良いでしょう。それより5番、クーデターの準備は出来ましたか?」
「ああ、ニホンが居なければ確実に成功する。だが、どうもニホンは全力を出しきれないみたいだ。それなら、確実にクーデターは成功する。」
5番と呼ばれた男はそう答える。
「奴らの持ってる兵器は夢物語みたいに強力だか、本国からここまでは2万キロ離れてる。だから、すぐにクーデターを成功させれば、増援が来る事は無い。それに、どうやらニホンとエタシア王国は軍事同盟は結んでいないらしいから、邪魔もそうそうしないだろう。どうも、奴らはルールには忠実みたいたいだからな。」
「それに、ニホンの兵器はシオン王国と同じ機械式だ。何発弾を持ってるか分からんが、クーデター軍の一部を港に向かわせて、弾の無駄遣いをさせるのも手だな。他国と国境を接するなんていう不確定要素は出来るだけ減らしたい。」
隣にいた、3番と呼ばれる男も話し始める。
その後も話し合いが続き、エタシア王国のクーデター計画は完成した。
「よし、これで準備は整った。あとは実行するだけだ。今回も成功して、たんまりと金を貰うぞ。」
「「「了解」」」
こうして、新たな戦いが始まろうとしていた。