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転移国家日本  作者: 狐ン
第二章
15/27

帝国の意思

大陸歴4215年7月10日 ミューレ帝国 ミューレスカ城


 城の中は大騒ぎだった。原因は、日本周辺で海上封鎖を行っていた海軍の通信が途切れた事だった。始まりは、日本のキュウシュウ島周辺にいた艦隊から、謎の攻撃を受けたとの連絡があった事だ。


 その数分後には、各地に展開していた艦隊からも同様の通信が入り、その後全て反応しなくなった。残ったのは僅かに50隻だったという。


 そして2日前、残りの50隻は、海上封鎖を諦めてトルキラーンに向かう途中、ホッカイドウ島の沿岸で消息を立った。


 アーティファクト搭載艦のアルディーネや、本来竜が生息しない帝国が莫大な予算を投入して作った竜母も、一瞬のうちに失ってしまった。しかし、アルディーネだけは、日本の軍艦にダメージを与えたとの報告が入っていた。


 「余は怒っているのだ……!日本は、一度ではなく、2度も我が帝国軍を退けた!!帝国の顔に泥を塗ったかの国は、必ず滅ぼさなくてはならない!!」

 御前会議の席で、皇帝は話始める。日本の情報は上に行くほど簡素化され、皇帝に都合のいいように書き換えられていた。それに加え、帝国上層部の自信が、自らの目を曇らせていた。


 「恐れながら皇帝陛下。現在、海軍の残りの軍艦は全て帝国西側にあります。トルキラーンでは戦列艦を建造中ですが、まだ時間がかかります。」

 軍事部門のトップである、アルースが報告する。


 「それは分かっておる。島国の日本を攻めるには、海軍の力が必要である。よって、戦列艦と共に、輸送船も建造する事とする。陸軍を輸送し、奥地にまで攻め入るのだ。帝国はもう負ける事は許されない!!絶対に成功させるのだ!!」


 「しかし皇帝陛下。軍部の中では、日本を恐れる者も出てきております。また、諜報部からの情報では、一部の属領で、独立の動きも出ているようです。下手に相手をすれば、事態は悪化する事になるかもしれません。」


 「うむ、その通りだ。だが、問題は無い。もう少しで、ニットラト遺跡のアーティファクトが使えるようになるのだ。」

 皇帝の言葉に、アルースは驚愕する。


 「ニットラト遺跡……!皇帝陛下直属の部隊が調査していたというのは本当だったのですか!?」

 ニットラト遺跡とは、ミューレスカから東に200km進んだ場所にある古代遺跡である。ただ大きいだけの遺跡と言われていたが、昔から帝国の極秘部隊が、アーティファクトを調査しているという噂があった。


 「ああ、あの遺跡から見つかったアーティファクトがあれば、日本を降伏させる事ができる。あと3ヶ月もあれば使えるようになる。どんな物かは、教えられないがな。」


 「いえ、素晴らしいお考えです。陛下。」

 アルースは皇帝を褒め称える。


 「アーティファクトの準備ができ次第、日本には民族浄化を行なう。帝国に反抗した報いは受けてもらわなければならないからな。属領に反乱の意思を無くす事もできる。万全の状態に整えられた帝国軍の力を持って、日本人を一人残らず殺すのだ!


 「ははっ!!」

 アルースは、皇帝の宣言に驚きつつも、頭を下げる。

 皇帝の命令を実行する為、準備が始められた。


大陸歴4215年7月12日 ミューレスカ 

 

夜、仕事を終えて自宅に帰ってきたラークナは、すぐにベッドで横になる。

 「はぁ、奴隷だった私が、奴隷を作る為の戦争に参加するとはな……。もう、家族に合わせる顔が無いな。」

 ラークナは、悲しそうな声で呟く。彼は幼い時、帝国軍に村を襲われ、奴隷になっていた。それから数年が立ち、数人の帝国人に使えた後、現在の主人である大東洋担当課長に買われたのだ。


 この人物は、帝国人としては珍しく、奴隷だったラークナにも優しく接し、さらにはその能力を見込んで自身の職場で働かしてくれた。切っ掛けを与えてくれたおかげで、彼はここまで自力で上り詰めてきたのである。


 勿論、奴隷をミューレスカ内で働かせるような異端な人物が大東洋担当課長等という地位にいるのは、大東洋が全く重要視されていない証拠であるし、ラークナ自身も同僚から何度も殺されそうになった事もある。しかし、ラークナは主人に恩義を感じていた。




 ふとラークナがベッド横のテーブルを見ると、そこには数枚の紙が置かれていた。


 「これは確か……日本の外交官から貰った資料か。」

 ラークナは気持ちを切り替える為、その資料を読んでいく。だが、読み進める程に、彼の手は震え、額からは汗が吹き出してくる。


 「なっなんだこれは!?」


 「ミサイル……軌道爆撃……水素爆弾……!!過去の兵器とはいえ、それを作る技術が失われた訳ではない……。日本は……アーティファクト級の兵器を作る力を持っているのか!!」


 彼の頭の中には、写真付きで書かれている、1970年のキューバ戦争で使われたメキシコの核ミサイルで、人が住めなくなったハバナの様子と、ミューレスカが重なって見えていた。


 「こんな物が使われたら、帝国がこの世界から消滅してしまう!!プライドの高い帝国上層部が、簡単に日本との戦争を辞める訳がない。そうなれば、奴隷は真っ先に使われる筈だ……。どんな手段を使ってでも戦争を辞めさせなくては!!」

 帝国内の奴隷を守る事を誓ったラークナは、独自に行動を開始した。


聖アルカ神国 港湾都市レレイ 冒険者協会


 「おい、始まるぞ!」


 夜、冒険者協会の酒場に取り付けられている魔導水晶の前には、冒険者達が集まっていた。日本を除けば、世界で唯一製造されているカラー放送のテレビ。そこから、週1回の国際ニュースが流される。それは、冒険者達にとって貴重な情報源だった。



 『皆さんこんばんは。国際ニュースの時間です。まず始めのニュースは、マテリカ大陸東部、大東洋での戦争についてです。』


 アナウンサーの後ろの魔導水晶に映されている映像が切り替わる。そこには、国境線が描かれたマテリカ大陸東部と、大東洋の地図が映されていた。その地図には日本が描かれていないが、海の真ん中に日本の位置を示す赤丸が描かれていた。



 『7月7日に、文明国であるミューレ帝国と、ローゼン王国、アリュータ王国に、この赤丸の場所にある、()()()のニホンを加えた、非文明国連合との戦闘が、ローゼン王国沖で発生しました。しかし、驚く事に、勝利したのは非文明国連合との事です。いまだ戦争は集結していませんが、今後の情勢に注目が集まっています。


 ニホンに観戦武官を送った、シオン王国からの映像が届いていますので、ご覧下さい。』


 「おい!聴いたか!あのミューレ帝国が負けたぞ!」


 「こりゃあ、どうなっているんだ?」


 ニュースキャスターから発せられた言葉に、冒険者達は驚く。その間に、テレビの画面が切り替わり、荘厳な建物が映し出される。


『こちらは、シオン王国の王城前広場です。シオン王国の担当者の話によると、今回、主に戦ったのは、ニホンという事です。ニホンは、ミサイルと呼ばれる空を飛ぶ兵器を約400騎も使用し、ミューレ帝国海軍を壊滅状態にしたとの事です。しかし、ミサイルがどのような兵器なのか、詳細は不明なままです。』


 「ミサイルってなんだ?」


 「空を飛ぶんだから、ワイバーンの亜種じゃないか?非文明国が、シオン王国みたいな飛行機械を持ってるとは思えないよ。」


 「ワイバーンだったとしても、400騎も投入できるなんて、非文明国としては異常だよ。ローゼン王国なんて、殆ど軍を持っていないじゃないか。」


 冒険者達の間では、様々な憶測が流れる。彼らの中で、日本は少しづつ注目されていった。

 

大陸歴4215年7月19日 北海道沖

 「よーし、引き上げてくれー!」

 この日、北海道沖では、大東洋海戦によって沈んだ帝国の戦列艦の引き上げ作業が行われていた。帝国側からは、沈没船の引き渡しは要請されていない為、この作業が出来ている。


 地球連合軍と民間企業の共同で行われているこの作業は、帝国海軍の正確な力を知る為に行われているが、最大の目的は、こんごうを攻撃し、練馬を沈没させたアーティファクトの回収にあった。現在、この海域には、十数隻の船が、回収作業を行っていた。


 「これがアーティファクト……。これを乗せてた船は爆発した筈なのに、殆どダメージを受けていないなんて……。」

 回収船の上で、作業員の一人が、海中から姿を見せたアーティファクト、日本側の呼称で《1号アーティファクト》と名付けられた物体を見ながら呟く。


 その姿は、巨大な黒い棒のように見えるが、中が空洞で、筒状になっているのを見れば、それが大砲の様な物だとすぐに予想出来る。


 アーティファクトという、未知の存在の回収が終わると、回収船団は港に向かう。その後、アーティファクトはつくば市の研究施設に運ばれ、本格的な研究が始まった。


11月14日

内容を大幅に変更しました。帝国と日本は講和せず、戦いは続いていきます。


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― 新着の感想 ―
[一言] ミューレ帝国、はっきり言って幼稚ですね。 そんな単純な謀略、少し頭の切れる者なら子供にでも読めてしまう。 どう足掻いても勝ち目が無いことに、いつになったら気付くのやら。
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