表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転移国家日本  作者: 狐ン
第一章
10/27

シオン王国

大陸歴4215年6月15日 ミューレ帝国 帝都ミューレスカ

 「皇帝陛下。先の戦いによって失われた兵士は、奴隷兵の徴収により、以前の水準に戻す事ができました。」

 皇帝が住まうミューレスカ城。その中で、御前会議が開かれていた。


 「今回は、先の戦争よりも多くの兵を投入出来る為、確実に……」


 「待った!」

 ウラルスの代わりに、軍事部門のトップになったアルースの話を遮り、ミューレ12世は話始める。


 「世は、怒っているのだ。栄えある帝国陸軍蹴散らし、帝国の顔に泥を塗ったあの日本という国が。奴らのせいで、3ヶ月間何も出来なかった。日本さえいなければ、今頃あの2ヶ国は我が帝国の物だったというのに。」

 皇帝の声に、その場にいた全員の背筋が凍る。


 「皇帝陛下。恐れながら、日本には戦争等という、生温い手ではいけません!」

 アルースは、皇帝に向かって進言する。その発言にその場にいた全員が驚いた。


 「なに?それはどういう事だ?」


 「はっ。日本は、島国なので、帝国海軍の力をもって海上封鎖を行い、兵糧攻めを行います。第三国経由の情報では、日本はローゼン王国から食料を大量に輸入しています。恐らく、国内が不毛の土地なのでしょう。日本から出てくる船を徹底的に破壊し、乗っている日本人を皆殺しにするのです。そうすれば、日本人は飢えに苦しみ、帝国海軍の力を思い知る事でしょう。」


 「ほほう、それは良い案だな……。アルース!クトロ島に軍港を造れるか!」

 皇帝は、何かを考えついた顔で、アルースに質問する。


 「はっ。クトロ島ならば、トルキラーンに造るのが良いと考えます!トルキラーンならば、クトロ島を統治している貴族の屋敷からも近く、資材の運搬も比較的簡単です!」


 「うむ。それと、向かわせる船だが、旗艦はアルディーネとする!」

 皇帝の宣言に、その場にいた全員が身震いする。アルディーネは、帝国が発掘したアーティファクト、《雷神の弓》を搭載した艦だったからだ。


 「トルキラーンの港を母港とし、日本を兵糧攻めするのだ!帝国海軍の全力をもって、日本に地獄を見せつけろ!」

 皇帝の宣言によって、恐怖の計画が始まろうとしていた。


大陸歴4215年 6月18日 ローゼン王国南方空域

 雲一つない空の下、一機の航空機が白い尾を引きながら飛んでいた。他国の技術力では決して作る事が出来ない科学技術の結晶。シオン王国の『サウル23』は、使節団を乗せ、時速310kmで日本に向かっていた。日本から3万キロ離れた、パルデリア大陸に位置するこの国家は、突然現れた科学文明国日本に興味を示し、その実態を探るために、日本に使節団を送っていたのだ。


 「日本まであと1000kmか……。やはり、飛行機は長く乗るものじゃないな。」

 使節団代表の、アブラハム・イールスは、こった肩をほぐしながら言う。

 「全くです。友好国の空港で燃料補給を6回。やはり、航続距離の長い飛行機の開発は必須ですね。」

 軍からやってきた、ヒレル・クロースが答える。


 「しかし、日本はどんな飛行機を持っているのでしょうね。空港がある事は確認していますが、この機体に耐えられますかね……?日本から戦闘機が二機が来るとの話ですが、どんな物が来るんでしょう。」

 間もなく日本の領空に入るという所で、ヒレルが話し出す。彼は、まだ見ぬ国家の航空機に、非常に興味を示していた。

 「まぁ、滑走路は恐らく大丈夫だろうな。ただ、格納庫にはこの機体は入らないかもしれないな。他国の航空機に比べて、この機体は大きすぎる。それと、新興国家ならば、魔導式空気圧縮エンジンは作れないだろうしな。きっとレシプロ機が来るぞ。」

 アブラハムは、シオン王国では過去の物となった、プロペラ機(複葉機)を想像していた。


 「新興国家がワイバーンではなく、戦闘機を持っているのは本当に驚きですよ。明らかに、非文明国ではありませんね。先入観なしで観なければいけませんな。」


 二時間半後、サウル23は、日本の領空に入る。窓の外をみると、遥か下には海が見え、魔導式空気圧縮エンジンの甲高い音だけが聞こえている。すると突然、二機の航空機とすれ違う。遅れて、轟音がサウル23を襲う。

 二機の機体は、遥か後方で向きを変え、あっという間に追いつくと、サウル23の誘導に入る。


 「な、何だあれは!速すぎる!はっ、あれは日本の国旗!アブラハム団長!あれは日本の航空機ですよ!」

 ヒレルは驚きながら伝える。


 「ば、馬鹿な!?我々は310kmの速度を出しているんだぞ!」


 「あっ!プロペラがついていない!?機体の前に空気の取り入れ口がある!まさか、日本も魔導式空気圧縮エンジンを実用化しているのか!?」

 ヒレルは驚愕する。


 「それに、あの翼の形は後退翼!!まだ理論段階の物を実用化しているのか!アブラハム団長!あの航空機は音速を超えますよ!」


 「バ、バカな!こんな東の外れの国に、我が国の空軍が負けるとは……!」

 アブラハムは、困惑しながら、地球連合空軍主力戦闘機、FH-47を見つめるのだった。


 一時間後、一行は日本の地方都市、福岡に到着していた。眼下に広がる大都市が、地方都市に過ぎないという事に、全員が驚愕していた。


 空港に着陸したサウル23の周りは、ジャンボジェットに囲まれ、その大きさの違いに、アブラハムは侮辱的な気分になる。その後、日本側の担当者に案内され、首都東京に向かうこととなる。


翌日 東京

 「では、これから会議を始めます。」

 東京都内の施設で、日本とシオン王国の国交開設に向けた会談が始まった。まず始めに、当たり障りのない、両国の文化や軍事力に関する紹介が行われる。


 「では、始めにシオン王国を紹介します。」

 アブラハムによって、シオン王国の紹介が始まる。内容は、()()()()()()()()()()()()()()()()という物だったが、ここ2日の体験によって、シオン王国こそが列強であるという、アブラハム達のプライドは完全に破壊されていた。それでも、残された愛国心を頼りに、事前に準備されていた内容を紹介する。


 「まず、我が国は日本から3万キロ離れている、世界の西端、パルデリア大陸にあります。我が国は世界で唯一、科学文明によって列強に登りつめました。」

 唯一の科学文明という言葉に反応したのか、日本側はやや驚きを持って話を聴く。

 「人口は、2億4000万人とこの世界で最も多いです。我が国は11の氏族と外国からの移民によって構成されています。詳しくは、お手元の資料に乗っています。」


 そう言って、アブラハムは日本側に資料を渡す。

 「次に、我が国の歴史についてですが……。」

 そう言いかけたアブラハムだったが、日本側の担当者が固まっている事に気づく。中には、アブラハムの話を聴かず、何かを話している者までいる。


 フン、やはり技術力が高くても、所詮は文明レベルの低い蛮族か……。日本に期待していたアブラハムは落胆しながらも話を続ける。

 「我が国の歴史は2700年前まで遡ります。驚かれるかも知れませんが、我が国の民は元々、異なる世界からやってきたのです。」

 その言葉に、日本側の全員が、アブラハムの方を向いた。


 「いまから2750年前、我々は、他の氏族と共に、イスラエルという王国を作っていました。しかし、敵国の進行によって国は滅び、我々の先祖である10氏族は、奴隷として連れ去れました。その後、我々の先祖は敵国から逃亡し、50年に渡って各地を放浪しました。その時出会ったのが、このヒレル君の出身でもある、ルル族なのです。10の氏族は、ルル族のもつ超古代文明の技術を授かり、彼らの神、アヌンナキに導かれて、この世界にやってきたのです。その後、度重なる危機によって、技術は失われてしまいましたが、今でもいくつかの機械は残されています。」

 アブラハムが話し終わると、あたりは静まりかえっていた。


 「アブラハムさん、我が国を説明する良い方法があります。」

 突然、日本側の担当者、鈴原が話し出す。

 「我が国も、貴方方と同じ、転移国家です。しかも、恐らくは同じ世界、地球からです。」

 その発言に、今度はシオン王国側が驚愕する。


 「我が国にも、失われた10氏族が古代イスラエルにいたという歴史が伝わっています。しかも、話しに出てきたイスラエル王国もありました。ルル族についての話は残っていませんが、オカルトや迷信としては、アヌンナキの作った古代文明の話が残っています。」

 鈴原がそう言い切る。日本の担当者の中にオカルト好きがいた為、この短時間で情報を整理する事ができたのだ。


 その後、両国は正式に国交を結んだ。両国の歴史学者や考古学者の研究によって、シオン王国の歴史の真実が明かされ始めると、同郷の仲間という意識が両国に芽生えていく。


 やがて、両国の交流は民間レベルにまで広がり、3万キロという距離がありながらも、両国は経済的、文化的にも強固な繋がりをもつようになるのだった。

2つ目の転移国家です。自分が見た日本転移系の話だとこういうのが多いけど、お約束的なのなるんですかね?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ