第5章☆万華鏡の覗き穴
第5章☆万華鏡の覗き穴
「陽子姉ちゃん!」
通りかかったドアの向こうから海斗の呼ぶ声が聞こえた。
ノブに手をかけるけれど、ガチャガチャ回しても開かなかった。
ドアに覗き穴がついていて、覗くと、縛られてソファに座っている海斗の姿が見えた。ただし、無数に、だった。
「デルムント」
デルムントが私と代わって覗き穴を覗いた。
彼は手のひらで3方向の平面を示した。
鏡が三枚合わさって、万華鏡のように映し出している。本物は一つだけ。
「どうする?君たちも中に入るかい?」
ノメドがいつのまにか背後に忍び寄っていて、耳元で囁いた。
「もちろん!」
そう言った私は覗き穴に吸い込まれていった。
ノメドがケケケケケと嗤う声がした。
ゴオオオオオン。
世界がねじれていた。
海斗がいる。でもどれが本物なのかわからない。
私の姿も無数にあった。
どれが本物なのか?
私が私である証明はどうすればできる?
私が動けば、他の私たちも同じように動く。そう。本物の私には意思がある。
ポケットに手を突っ込んで、なにか硬いものに触れる。
銀色のコイン!
あの日、鏡はこれと引換ではなく家へきた。だから、このコインは私のポケットにある!
鏡の床を、コインでガンガン叩く。バリン。
バキバキバキバキ・・・
鏡は粉々に崩れ落ちた。
「陽子姉ちゃん」
「海斗!」
赤いビロードのソファに座っている海斗。本物の弟見つけた!
「崩れるぞ、早く」
デルムントが言った。声が戻った。
喜んでいるのもつかの間。地響きがして、城自体が崩れ始めていた。