第3章☆劈開
第3章☆劈開
ゴツゴツゴツ。
デルムントがドアノッカーを叩くと、大きな木戸が開いた。
「何の御用で?」
背むしの門番が不気味に聞いた。
「用はない」
デルムントがそういうと、なぜか中へと入れてもらえた。
「主が困っています」
モノクルを片眼に嵌めた背の高い男が何の前触れもなく現れて私たちに言った。
「幼い子どもがガラスの中にダイヤを置いてしまい、どれが本物のダイヤか見分けて欲しいのです」
デルムントと私は城の奥の部屋の一つに通された。
どれもこれも1カラットのブリリアントカットの粒が広いテーブルの上にゴロゴロ転がっていた。
「陽子。どう思う?」
「きっと、あの男の人は鑑定の目利きで、ただ私たちを試したいんだと思うわ」
「うん。いい線いってるね」
デルムントは、肩をすくめた。
「そうだ!これを全部ハンマーで叩いてみたらどうだろう?ダイヤは世界一硬い鉱物だから、それだけが残るに違いない!」
モノクルの男が高らかに叫んだ。
「駄目だ!」
デルムントがさえぎった。
「鉱物には劈開といって、ある方向にだけ割れる性質がある。ダイヤも叩いたら割れてしまうぞ!」
「じゃあどうする?」
「モース硬度計の理屈で行く」
デルムントは自分の燕尾服の裾に縫い付けている色とりどりの小さな石の中からたったひとつだけあったダイヤの欠片を取り外した。
「こいつで引っ掻いて傷がつくのはガラス。傷がつかないのはダイヤだ」
「お見事」
モノクルの男が拍手した。
「お嬢さん、あなたを試したかったんだが、こちらの殿方は手強いね」
そういうと、モノクルの男はノメドの姿に変わった。
「あっ!弟を返して!」
「この城のいくつかの難関を通り抜けたらお返ししよう」
ハハハハハ・・・
笑い声だけを残してノメドの姿がかき消えた。
「デルムント。ありがとう」
「どういたしまして。この後どうなるかは正直、陽子自身にかかっているよ」
「わかった」
テーブルの上にゴロゴロ転がっていたものは普通のありふれた石ころに変わってしまっていた。