第1章☆13日の木曜日
第1章☆13日の木曜日
次の週の木曜は13日だった。
弟の海斗が
「つまんねーの。13日の金曜だったら良かったのに」
と、カレンダーにあかんべーした。
私は苦笑しつつ、出掛ける用意を手早くした。
「こんな朝早くから学校かい?」
パジャマ姿の父さんが怪訝そうに聞いた。
「骨董市に行くの。欲しいのが待っててくれるかもしれないんだ」
「ふうん。・・・ちょっと待て」
「何?」
「お前に見せたいものがある」
父さんが二階に向かったので、ついて行く。海斗も私の後ろをついてくる。
「これ・・・」
くだんの鏡がクローゼットから出てきた。面食らってる私を見て、父さんは言った。
「先週、出勤途中でどうしても足が吸い寄せられてね」
「・・・いくらだった?」
「三千」
「今日、五百のはずだったのに」
「あちゃー」
父さんが頭を抱え込んでしかめっ面をした。
「こら、ダメじゃない」
私は鏡に向かって言った。
父さんは自分に言われたと思ったみたいで、
「この鏡買ったの、母さんには内緒、な」
と言って、私にくれた。
「いいなー。陽子姉ちゃんばっかり」
「へへん、だ」
私は鏡を大事に持って子供部屋に行った。
夜中。
海斗が合わせ鏡をして遊ぶと言って聞かなかった。
「何にも起こらないよ。早く寝ましょう」
私は大あくびした。
母さんの使っていないコンパクトの鏡を持ち出して、海斗は目が冴えている様子だった。
「13日で金曜なのは、ほんの一瞬だけどもうすぐだから」
カチカチカチカチ・・・
部屋の鳩時計がブウンと音をたてる。ちょっと怖くなった。
鏡と鏡の間に無限の繰り返し世界ができる。
パッポウ、パッポウ、パッポウ、・・・。
鳩が12回時刻を告げると、扉が閉まって、鳩は中に引っ込んだ。
しんとした夜の静寂が訪れる。体の芯まで染み入るようだ。
「ほら、もう寝よう、海斗」
「ん・・・」
二人が二段ベッドの方に向かおうとする。
その時。
「呼び出しておいて、それはないだろう」
と男の声がした。
振り向くと、白と黒。二人の対照的な男が立っていた。
外国人かな?彫りの深い顔立ち。でも日本語でしゃべってる。
白いシルクハットと白い燕尾服の男がデルムント。
黒いシルクハットと黒い燕尾服の男がノメド。
「鏡の中に遊びにおいで」
「行く行く!」
「海斗!」
「陽子姉ちゃん嫌なら残れば?」
「でも・・・」
「この鏡の持ち主は陽子だ」
ノメドが言った。
「陽子の意思に我々は従う」
デルムントが言った。
「明日も学校が・・・」
「時間は止まっているよ。今なら自由になんだってできる」
鳩時計が凍りついたように動いていなかった。
「行こうよ陽子姉ちゃん」
海斗の瞳がキラキラしてる。
「わかった」
深呼吸して、ちょっと目を閉じたら、次の瞬間、四人は鏡の中に入っていた。