9.親バカの相手は疲れるぜ!
「『我が意に従い氷礫を穿て』」
射出された氷礫が逃げる狼の先に着弾し、狼の行く手を阻む。
「ナイスティナ!」
狼がスピードを落したその隙に接近する。
そしてそのまま横を駆け抜けると同時に撫で斬りにする。
「キャウンキャウンッ!」
「ティナ!」
「『我が意に従い氷礫を穿て』」
「ギャンッ」
よっし、討伐完了。
いやぁ、手数がある分依頼が楽ですなぁ。
ティナと初めて会ったときから1週間が経過した。
お互いの戦闘スタイルなどを確認した後、ゴブリンの依頼を受けたりして連携の確認などをして今回は狼の依頼を受けいた。
「いやぁ、まさかまたあんな集団で出てくるとはなぁ」
「ん、驚いた。グリーンウルフが8匹もいるとは思わなかった」
「俺もだ。この前は7匹だったが、着々と増えてないか?」
「7匹と戦ったの?」
「あぁ、確か2週間前だったかな?ソロで狼狩りに来てたんだけど。あの時はホントやばかったなぁ、死にかけたわ。アハハハハハっ」
「……笑い事じゃない」
「ハハッ、死ななかったんだからいいんだよ」
死にそうになったけど結局死ななかったし。
死なねば何でもいいのだ。死ななければな。
「これはギルドに報告だな」
「何が起きてるの?」
「わかんね。全く、何が起きているのやら。メルドの話だとどこかで上位種が湧いたか、大量発生からしいけど。まだ詳しい情報は得られてないんだってさ」
「大丈夫?」
「さぁ、俺たち下っ端冒険者にはあまり詳しい情報は回ってこないからな。まぁ今日はこれで切り上げよう」
「ん」
この1週間、二人で依頼を受け続けた結果、ティナのギルドランクがFランクに上がり、俺と同ランクになった。
いやー、優秀だね。冒険者で魔術まで使える人というのは少ないらしく、かなり期待されている。
「お、ヨシユキ達じゃねぇか。今日はもう依頼終わったのか?」
「はい、なかなか苦戦しましたよ」
「ハッ、怪我一つないくせに何言ってんだか。まぁ怪我してないことに越したことはないがな。気を付けるんだぞ?」
「はい」
「ラティナちゃんも気を付けろよ?」
「ん、わかった」
「ラティナちゃんは美人さんだからな。顔に傷なんて付いたら親御さんが悲しむぞ?」
「ん、気を付ける」
やっぱりジルダンさんは見た目に反してめっちゃ優しいな。
「あ、ヨシユキとラティナさんおかえり」
「ただいまメルド」
「ただいま」
「依頼どうだった?」
「あー、8匹の群れに遭遇した」
「……またか」
「やっぱり最近多いんだな。なにか情報とかないのか?」
「んー、今のところこれといった情報はないんだ」
「そうか」
「何かわかったら教えるよ。教えていい情報ならだけど」
「おう、そん時は頼むわ」
ほんと、何が起きているのやら。
まだい世界に来てから1か月しか経ってないというのにもう騒動の予感だよ。
ラノベの主人公かよ俺は。
「それじゃ帰るか」
「ん」
「今日は家に帰るんだったよな?」
「そう、お父さんが帰って来てってうるさい」
「そう言ってやるなよ。ニシキさん冒険者になることちゃんと許してくれたんだしさ」
ティナは今、俺と同じ宿で生活していた。
町に家があるのだからその家に帰ればいいのにティナは宿に泊まると言ってきかないのだ。
ティナ曰く冒険者は宿に泊まるものだそうだ。
てことでお互いの戦闘スタイルを確認した日の翌日にティナの家、ドラクマ家に一度戻ったのだ。
いやー、あれは驚いたよ。
ティナの家に入った途端漂ってくる負の気配。
居間を覗くと隅っこでニシキさんが体育座りで負の気配を垂れ流していたのだ。
そしてティナが今を覗いた瞬間、グルンと勢いよく首が回り泣きはらし真っ赤になった目が露わになる。
そして負の気配が一瞬で消し飛び居間中を花色気配で埋め尽くした。
ティナが考え直して帰ってきたのだと思ったそうだ。
しかし次のティナの「宿に住むから」発言でまたしても負の気配を垂れ流す。
その状態のニシキさんが心配で仕事も休んだティナのお母さん、マリナさんと協力してどうにかして宥め話を聞いてもらった。
ニシキさんは一生懸命説得しようとするティナに負け冒険者になることを許可し、ついでに宿暮らしも条件付きで許可した。
その条件が週に一度家に戻ってくること。
冒険者になるのだから長期の依頼で帰れないここもあるだろうが、帰れる時には必ず帰ってこいとニシキさんは言っていた。
それをティナが承諾し、そして今日がその約束の日なのだ。
「ただい――」
「ティナッ!おかえり!」
はえぇ。
ティナが玄関扉開ける前から玄関の前にいただろ?
絶対ティナが帰ってくるの知ってたなこれは。
なんかもうあれだな。最初の威厳とか全くないな。今じゃただの親バカにしか見えないぞ。これでちゃんと仕切れてんのか?
「どうもニシキさん」
「おう、ヨシユキ。ティナは大丈夫だったか?怪我とかしてないか?てかさせてないだろうな?一ミリでも傷がついていたらてめぇただじゃ済まさねぇぞ?」
「いまさら怖い顔して凄んだって怖くないですよ。てか冒険者になるんだから怪我の一つや2つ普通ですよ。まぁ怪我はさせない方がいいんですが。ニシキさんもちゃんとその話を聞いたうえで承諾したじゃないですか」
「ぐっ、それはそうなんだが……」
「ティナ、娘さんが心配なのはわかりますがもうちょっと子離れした方がいいですよ?ティナも年頃の女の子なんですから、あまりしつこくすると「お父さん嫌い」とか言われちゃうかもですよ?」
「な、なん、だと!?」
おー、おー、凄いショック受けてる。
「ヨシユキさんの言う通りよあなた?」
「あ、どもマリナさん」
「ただいまお母さん」
「おかえりティナ。ヨシユキさんもいらっしゃい。今お茶入れるから今で待っててくれるかしら?」
「あ、どうぞお構いなく」
「あなた、手伝って」
「き、嫌い、キライッテ……」
「もう、ほら行くわよ」
「ティナニキラワレル…………」
ニシキさんがマリナさんに引きずられていく。
ホント、この人こんな有様で組織のトップやっていけてんのかな?
ちょっと心配だわ。
「あ、ティナ。マリナさんがお茶用意してくれてるみたいだけど俺今から用事があるから。申し訳ないけどもう行くわ」
「分かった。また明日」
「おう。朝迎えに行くから待ってろよ?」
「ん」
ティナと会話するのも大分慣れたな。
はじめはかなり緊張したからな。表には出てないと思うけど。
引きこもりコミュ障の俺には美少女と会話するなんてちょっと難易度が高いんだよな。
おかげで気が休まる時間が少ない。ティナといるのが嫌ってわけではないんだけどな。
ティナに用事があると言っていたが、用事というのはガリアさんのもとに行くことだ。
ガリアさんに頼んで投げナイフやちょっとした小物等を作ってもらっている。それを今から受け取りに行くのだ。
「こんちわスガリアさん」
「おう、来たかヨシユキ。頼まれてたもんできてるぞ」
「おぉ、見せてください見せてください!」
「おう、待ってな」
いろいろ頼んだからなぁ。ちゃんとできているだろうか。
「どうだヨシユキ。お前に言われた通りに作ってみたつもりだが、どうだろうか?」
「おぉ、良いですね。想像通りです」
ガリアさんは俺が頼んだ通りの物を作ってくれたようだ。
まずはいつもの投げナイフ。今回は20程用意してもらった。14000もするが稼ぎの増えた今の俺にはどうってことないな。ティナがパートナーになってくれてから効率よく狼を狩れるようになったからいつもの倍近くの狼を狩れているのだ。
今じゃ所持金42万マイン越え。正直日本で働くより給金いいんじゃないだろうか。だって一週間で40万近く稼げるんだから。
次に棒手裏剣。ってかただの尖った棒だ。大体20cmぐらいの奴。これは安くて200マイン。40本頼んでたから全部で8000マインだ。
次に撒菱。あれだ、忍者が逃げるときに撒いたりするやつ。これも安くて100マイン。200個で20000マインだ。
この二つは実戦用というか俺の趣味だ。いや趣味なのかな?俺って戦い方がなんか暗殺者とか忍者とか、そっちよりじゃん?だったらこいつらは持っておかないとなぁって遊び心で作ってもらってみた。
後は鎖とか鍵爪付きの長いロープとかで12000マインだ。
合計54000マイン。
「はい、確かに注文通りです。これ代金です」
「おう、……丁度だな」
「ガリアさんって仕事が早いですよね」
「まぁこれくらいならな。それにしてもヨシユキ。それだけのものを一体どこに隠してやがんだ?」
「ふふふ、秘密ですよ」
不思議そうに眺めるガリアさんの前で狩ったものをアイテムボックスの中に収納していく。
もちろん見えない様にポケットに入れるふりをしたり服の下に隠したりしながらだが。
一応アイテムボックスのレベルを3に上げてるからまだまだ余裕で入る。
「それでは」
「おう、いつでも来いよ」
ガリアさんとはなかなか趣向が合うからな。これからも御贔屓にさせてもらいますよ。
さて、今日は帰って休むとしますか。明日は早くからティナを迎えに行かないといけないからなぁ。
絶対ニシキさん駄々こねるよな。
面倒くさそうだ。
マリナさんと協力しないとな。
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