8.正直ティナの方が強いんじゃね?俺必要かな?
書き溜めがどんどん消費されていく……
ギルドの扉を開くといくつもの視線が突き刺さる。
入った時に視線を向けられるのに離れているのだが、今回の視線は何やら雰囲気が異なっていた。
その視線の主に目を六重Kると表情を驚きに染めていることが分かった。
てかあの人たちさっき俺のことをつけていた人たちじゃね?
「凄い見られてる」
「まぁ見られるのはいつもの事なんで慣れてくれ」
不思議に思いながらも受付に向かうとこれまた驚いた顔で固まるメルドがいた。
「よ、ようメルド。いったいどうしたんだ?」
「え、あ……無事だったの?」
「へ?何が?」
「いやっ!ヨシユキがドラクマのところに向かったって聞いて……本当に大丈夫?」
ドラクマって、ニシキさんのところだよな?
仕切っているとか言っていたけど、そうとう町の人に怖がられてるみたいだな。
確かにすっげぇ怖いけど。
話してみるとかなり怖い親バカだよな。怖いけど。
「あ、あぁ、ちょっとお茶飲んでお話ししてきただけだけど……」
「お、お茶!?どらクマのところでお茶飲んでお話ししてきた!?」
「お、おう」
声がでかいよ。これ絶対他の奴らにも聞かれてるよな。
周囲を探ってみると聞き耳を立ててる奴が結構いる。
そいつらも今のメルドのように驚きざわざわと騒めいている。
「ほ、本当に無事なんだよなね?何かされてない?その、拷問とか……」
拷問って、さすがにニシキさんもそんなこと……しそうだな。
「大丈夫大丈夫。それよりこの子の冒険者登録したいんだけど、大丈夫?」
「え、あぁ、大丈夫だけど。ちょっと待っててね」
あ、そういえば。
「なぁ、ティナ。お金持ってる?」
「……飛び出してきたから何も持ってきてなかった」
「だよなー」
確か登録には1000マインいるはずだけど、まぁ今回は俺が払っておくか。
「今回は俺が払うよ。冒険者になれるお祝いってことで」
「ありがとう」
相変わらず無表情だけど少しうれしそうだ。この短期間で結構ティナの表情を読めるようになってきた。
「じゃぁこの水晶に触れてくれるかな?」
「これでいい?」
「うん、大丈夫」
水晶は使ったし、次は書類か。
さっきの様子からしてティナがドラクマの娘さんだって知ったらすごい反応しそうだな……。
「次はこの書類に必要事項を記入してね」
「ん」
そういえばメルドと初めて会ったのもこの登録の時だったよな。今は仲良くなって言葉も崩れているけど前までは固い敬語使ってたなぁ。懐かしや。
「えーと。名前はラティナ・ドラクマさんで、年齢は15歳。出身地はこの町なんだ。15歳の女の子が冒険者になるなんてよく親御さんが許してくれたね?」
「説得頑張った」
いやー、あれは説得というより言質取って無理やり出てきたって感じだよな?
それにしてもティナの名前見たのに反応がないな。
気づいていないのかもしれないな。
「へー………ドラクマ?」
あ、気づいた。
「え、えっと。確認するけどお名前はラティナ・ドラクマ様であってますよね?」
おぉ、様付からの敬語だ。
冷や汗ダラダラでながして頬が引きつっている。
「ん、私の名前はラティナ・ドラクマ」
「ど、ドラクマというとあのドラクマでしょうか?」
「あのがどれかわからない」
「す、すみません。この町で有名な、裏を仕切っているドラクマでよろしいでしょうか?」
「ん、そのドラクマ」
「………申し訳ございませんでしたっ!」
おぉっ、すごい勢いで頭下げた。周りで聞き耳立ててた奴らも驚いて椅子から転げ落ちてる。
すごい反応するだろうなとは思っていたけどまさかここまでとは……。
恐るべしドラクマ。
「ちょ、ちょっとヨシユキ!どうなってるの!?」
「え?」
さっきまで頭下げてたメルドがカウンターから身を乗り出して俺に問う。
「え?じゃないよ!わかってるよね!?なんでドラクマのご息女がこんな冒険者ギルドにきてるの!?てかたしか登録に来たんだよね!?この子の登録なんかしたらニシキ様に殺される!親バカで有名なニシキ様が冒険者になることを許すなんてありえないよ!?どうゆうこと!?なんでヨシユキがこのお方と一緒にいるの!?」
すげぇ詰め寄られた。
メルド驚きすぎて言葉が所どこと変だぞ?
「いや、なんかニシキさんが俺に頼みがあるとかで家に行ったら、ティナの冒険者のパートナーをしてくれって言われて。それからいろいろ話をして今に至るんだけど」
「どういうこと!?まったく訳が分からないよ!」
この話もきっと聞こえてるんだろなぁ。
だってさっき以上に周りが騒がしいもん。すっごい驚いた眼でティナのこと見てるもん。
なんかちょっかいだしてきたりしそうだな。
「まぁ兎に角、これからはティナと一緒に冒険者として活動することになったんだ」
「ほ、本当に大丈夫なの?」
「疑い深いなぁ。大丈夫だって、なぁティナ?」
「ん、大丈夫」
「ほら、本人がそう言ってるんだし」
「わ、わかった」
ようやくわかってくれた。
「それでは、こちらがギルドカードになります」
「ん、ありがとう」
「よかったな」
「んっ」
憧れの冒険者になれたのがよっぽど嬉しいのだろう。瞳がキラキラしている。
「早速依頼を受ける」
「いや、待て待て」
「む、なに?」
ワクワクした様子で掲示板に向かうティナを止める。
じろっとこちらを睨んできたよ。ちょっぴり頬が膨れてるのが可愛いね。
いやー、美少女に睨まれるなんてご褒美だね。一部の人たちにとってはだけど。俺的にはそこまでご褒美じゃないよ?そこまでだけど。
「まずはさ?本番行く前にお互いの実力ってものを知っておこうよ。俺、ティナがどんな戦い方するのか知らないし。魔術使えるだけしか知らないしね。逆にティナも俺の戦い方知らないでしょ?やっぱりお互いの実力や戦い方を知らないと連携とかできないからさ。ね?」
「……一理ある。わかった」
「それじゃ。準備はいい?いまから町の外に出るから何か欲しい物とかある?」
「ない。この杖があれば大丈夫」
「そういえば、お金も持ってなかったのに杖だけは持ってきてたね」
「うっ……杖は魔術師の半身だから……」
「へぇ、杖ってどんな役割があるの?」
「杖は魔力を伝導させ魔法を発動させやすくする道具。杖が無くても魔法が使えるけど、結構難易度が高くなる。魔術が使える私でも、杖なしじゃ魔法使うのも大変」
ほー、杖は大事なんだな。
だったら俺も魔法使う時杖買わないとなぁ……。
いくらするんだろ。
「安い杖は数万マインで買える。でも魔力伝導率が悪くて魔法が使いづらい」
「なる」
「なる?」
いつか自分用の杖買っちゃお。
「お、ヨシユキじゃないか」
「ども、ジルダンさん」
「なんだ、今日も依頼か……って、今回は女連れか?しかもかなりの美少女。これから町の外でデートでもすんのか?」
「はっ、俺がこんな美少女とデート?ありえないですよ?」
「え、あ、おう。そうか。なんか、ごめんな?」
「全く、常識ですよ?」
俺が美少女のデートなど、緊張しすぎで落ち着けないし絶対しないよ。出来てもしないってかできるわけないよ。
今美少女と歩いているのは謂わば仕事だ。
俺、公私混同はしません。
「さ、行こうかティナ」
「……ん」
何だろう。眠たそうな目でジルダンさんと同じように俺を憐れむような目で見てくる。
ま、気にしない気にしない。
「よし、ここら辺でいいか」
「まずはどうする?」
「そうだなぁ……、まずはティナの使える魔法を見せてもらおうかな」
「ん、どんなのがいい?」
「一番得意なものがいいな」
「魔法?魔術?」
「魔法で」
「ん」
さて、この世界初の攻撃魔法。見せてもらおうか!
「『我が意に従い氷礫を穿て』」
ティナの詠唱が終わり掲げた杖の先端に幾つもの氷の礫が作り出される。
拳大の物から小石大の物まで。それらの氷の礫が全部で45個浮かんでいる。
次の瞬間、ビュッと空気を切り裂き飛び出す氷の礫。
ズガガガガガッっと音を立てて地面に打ち込まれていく。
やべぇ、めっちゃはえー。てかすげぇ!テンションアゲアゲだわマジでパないっすよ。
あれだ、バッティングセンターで240kmのやつ見たことあるがあれ並に早いよ多分。
氷の礫は先端かなり尖ってるし、地面に突き刺さるぐらいだからそれなりの強度はあるのだろう。
そんなものがあんな速度で、しかも連射するとかエグイな魔法。
チョー怖い。
「これ、戦闘でも使えるんだよな?」
「戦闘中だと使えない。今回は時間があって、ゆっくりと魔力を練れたからできたこと」
「そ、そっか。いや、よかったよ。流石に戦闘中にあれが使えたら怖すぎる」
「私じゃ無理だけど、魔導士レベルの人たちなら多分余裕」
「まじかー……」
魔導士やべぇわ。
「戦闘中ならどれくらいなんだ?」
「『我が意に従い氷礫を穿て』」
今度は10個の礫が作り出され、バッティングセンターの140kmぐらいで打ち出される。
あれだな、バッティングセンターで例えるとなんか怖くなくなってくるな。
まぁ140kmでもかなり早いんだけどな。魔法に注意しておけばギリ避けれるが、戦闘中の注意が散乱する時なら十分使えるものだ。
「これ戦闘中に使えるのか。魔法使いすげぇな。あ、魔術使えるから魔術師なのか」
「次、どうする?」
「んじゃ魔術見せて。これも戦闘中に仕えるレベルの物」
「ん『象るは氷像の刃』」
短い詠唱を唱えると同時に掲げた杖の先に幾何学模様が描かれていく。魔法陣だ。魔法陣なのにさっきの魔法にはなかったのはなんでだろうか。
詠唱尾が終わると先ほどの礫のように三日月形の氷の刃が作り出される。
「『敵を穿て』」
その言葉を合図に氷刃が初めの初めの氷礫より遅く、二回目の氷礫より早いスピードで飛んでいき、当たった地面を大きく斬りつける。
「ほぁ……すげぇわ」
いや、すげぇとしか感想がでねぇわ。
「なぁ、さっきの魔法じゃなかった魔法陣が今回出たのはなんで?」
「魔法陣を一から作ってるから。魔法は元々ある魔法陣を使ってるから魔法陣を浮かべる必要がない。でも、魔術はその魔法陣を一から構築して自分が望む効果を発揮させるため、魔法陣が見えるように浮かべている。熟練になると魔法陣を浮かべ目に見えるようにせずとも頭の中で構築できるらしいけど、私にはまだ無理」
「へぇ、あれを一から作ってるのか」
「ん。でももともと考えていたものだからあの速度で使えるけど、新しく作るとしたらそれなりの時間は必要」
「プログラムみたいなものか」
「プログラム?」
あれだろ?魔法ってのはもともと作られていたプログラムを活用していて、魔術は自分でプログラミングをしているってことだろ多分。
「ちなみに魔導はどんな感じなんだ?」
「魔導はそう望むと望んだとおりの魔法が構築される」
「もうちょいわかりやすく言うと?」
「欲しい魔法が勝手に作られる」
「あね」
つまりだ。魔導はお客さんが望んだプログラムをオーダーメイドしてもらってるってことだろ?俺たちに対してわかりやすく説明すれば。
「今の説明で分かるんだ」
「いや、わからない説明してたの?」
「魔導は魔法の中で最難関の技。その魔導を理解するのも難しい」
「あー」
この世界の住人にとって説明しづらいことなんだろう。
「そうそう、ティナが使える魔法とか魔術とか、使えない属性とかあるのか」
「使えない、というか苦手なものならある」
「例えば?」
「火、土系は苦手」
やっぱり苦手な属性とかあるんだな。
でも使おうと思えば使えるんだよな。
「次はヨシユキの番」
「あ、そうだな。でも、俺の場合敵がいないとなぁ」
ティナに力を見せてもらったのだから今度は俺が見せなきゃな。
今できる限りの物を見せてやろう!
っと、その前に魔物を探さねばな。
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