7.ヒロイン?いいえ違います。仲間です。
※ヒロインです。サブタイトルに惑わされないでください。
「す、すげぇ……」
所々違和感を感じるが、和風の立派な屋敷が佇んでいた。
広い和風庭園には池と石灯篭、雅な音を奏でる鹿威し。松のような樹が植えられており、庭と家屋が織りなす芸術品のような美しさがあった。
と、どこぞのオサレな雑誌などに載ってそうなことを言ってみた。
実際、芸術とか建築とかに素人の俺からしてもすげぇと思えるこの建物はあのやばいおっさんの家らしい。
あれから逃げることなどできもしない俺は周囲をやばい人に囲まれ、やばい人よりさらにやばいおっさんに先導されここまでやってきていた。
「それで俺に頼みたいことってなんですか?」
「まぁそう焦るな。話は家の中で実際に会ってもらってからするから」
あれから何度聞いてもそうはぐらかされる。
会うって誰とだよ。悪魔か?悪魔が住んでるのかこの家には?
「帰ったぞ」
「あら、おかえりなさいあなた」
ん?この声、どこかで聞いたことがあるような……。
家の奥から届いた女性の声、つい最近聞いたことのあるような聞き覚えのあるものだった。
どこだっけなぁ……。
「あら、そちらの方は…………あら?」
「え、あ、あぁ!あの時のシスター」
家の奥から出てきたのは以前教会で俺の治療を担当してくれたあのシスターだったのだ。
道理で、あれからまだ1週間程度しか経ってないからな.
「あの時の冒険者さんでしょう?家の主人と一緒に……もしかして、あなた?」
「……今回は違う。こいつは俺の客だ」
「あら、そうだったのね。いらっしゃい、寛いでいってね」
「あ、はい」
えぇ、あのシスター結婚してたのか。てかその相手がこのおっさん……。何歳差だよ。もしかして………、
「……一応言っておくが、犯罪じゃないからな?」
「っ、そ、そんなこと思ってにゃいですよ?」
「思いっきり噛んでるじゃねぇか。あいつ、あれでも30代後半だぞ?」
「え、マジ?」
すっげぇ若く見えるんだけど。
「美人だろ?羨ましいか?」
「そうですね」
「だからって手ぇ出してみろ、一生動けねぇ体にしてやるからな?」
「あ、はい」
やっぱ怖ぇよ。
ビクビクとおっさんに怯えながらおっさんに案内され、ついたのは畳のようなものが敷かれた大広間だ。
「ここで話をする。まぁ寛ぎな」
「はい……」
寛げって、この状況で寛ぐなんてできないだろ……。
「……自分で寛げって言っときながらこういうのもなんだが。寛ぎすぎだろ!?」
「あ、すみません」
ちょっと疲れたんで寝転がったら怒られてしまった。
「まぁいい。それで、お前をここに呼んだ用件なんだが……」
なんだ?何を頼んでくるんだ?厄介な用件じゃなかったらいいけど。
「俺の娘のパートナーになって貰いてぇんだ」
おっとぉ~?何がどうなってこうなったのかわからないんだけどおっさんの娘さんの何かのパートナーを求められてるぞ?
パートナーって何のパートナーよ。人生?人生のパートナー?伴侶なの?
「えっと。パートナーって何のパートナーですか?」
「あ?そりゃ冒険者だろ」
あ、そうですよね。
でも冒険者のパートナーって必要なのか?冒険者なら一人でもなれるだろう。てか俺一人だったし。
「あー、実はな。うちの娘が冒険者をやりたがっていてな。今年15になるんだが……その……」
おっさんはごにょごにょし、少し顔を赤らめている。
正直おっさんのそんな顔見ても気持ち悪いだけだぞ。
まぁこのおっさんは渋いイケメン系だからそういう趣味のお嬢さん方には受けるかもしれないけど。
「心配、なんだよ」
「し、心配って。それなら部下の誰かつければいいんじゃ……」
さっきまでいたあの怖い人たちに頼めばいいじゃん。
あの人たちはこのおっさんの部下らしく命令すればなんでも言うこと聞いてくれるだろう。
「それはもう娘に提案したんだが、俺の部下は嫌だって言われてなぁ」
あ、おっさん涙が浮かんできてる。
あれだな、年頃の娘が反抗期に入った頃のお父さんみたいだな。いや、みたいじゃなくてそうなのか。
「いや、それでもですよ?なんで俺なんですか?名前もわからないどこの馬の骨とも知らない男に娘さん任せて大丈夫なんですか?」
「あ?それなら大丈夫だ。さっき部下にお前の事調べさせたが、ギルドマスターにも期待されてるらしいじゃねぇか。なぁヨシユキ?」
うわー、すっげ。このおっさんと出会ってからまだ数十分しか経ってないというのにもう調べ終えてんだ。
「いや、それでも―――」
「まぁ兎に角。いっちょ本人と会ってみてくれや」
「え、マジ?」
ちょっ、なにも承諾してないのに本人連れてくんの!?
待て待て、まだ心の準備がっ。
「おーい、ティア!」
まじか、まじですか。本当に呼んじゃうの?確か今年15歳の少女だよな?
コミュ障の俺にはかなり厳しいぞ。
「なに、お父さん」
っ、きた。
「……だれ?この人」
「あ、えっと……」
「こいつ、ランクFの冒険者だ」
「冒険者っ」
「それでお前のパートナーだ」
「パートナーっ。てことは、許してくれるの?」
「……正直、俺はまだお前には冒険者になってほしいとは思わない。が、俺の意思でお前の道を塞ぐのは我らが始祖黒龍グレアシャロウの在り方に反するからな……。己が道は己で切り開け。しかし、道を決めるのはお前だが、その手伝いくらいはしても構わんだろ?」
「……お父さん」
「あのぉ……」
ちょっと親子の感動話みたいないい雰囲気なんですが……、その話の流れだと俺がそのこのパートナーになること確定じゃね?
「俺、まだ引き受けるとは言ってないですよね?」
父娘の似ている鋭い視線に耐えながらどうにか言葉を出す。
「いや、お前さ。空気読めよ?」
「ん、空気読むべき。……まだ了承得てなかったのお父さん?」
「ん、今丁度その話をしていたところだ」
「お父さん……」
「で、あのぉ……」
「だめ……?」
ぐ、そんなウルウルさせた瞳で見ないでくれ。
「いや、君もいいのか?俺みたいな知らない奴をパートナーとか」
「…………大丈夫?」
「いや、俺に聞かれても……」
まぁ襲う気はないよ。そんな勇気はないし。
「大丈夫だティナ。部下にこいつを調べさせたが、ホモらしいからな」
「……ホモ?」
「いや違うよ!?」
なんで?なんでそんなことになってるの!?
「あ?しかし確かに報告書にはホモと書かれてんだが」
「なんでそんなことになってんの!?」
「いや、だって。お前受付の兄ちゃんと仲いいんだろ?」
受付の兄ちゃんって、もしかしてメルドの事か?
「メルドとは違いますからね!?あいつとは友達ってだけでそんな関係ありませんからね!?」
「しかしお前は他の受付にはいかないでずっとメルドっていうその兄ちゃんとこに毎回行ってるんだろ?」
「ま、まぁそうですけど。それでどうしてそんな話になるんですか!」
「知らねぇよ。冒険者の連中や職員の奴に聞いて調べたらそういう話が出てきたらしいんだが……」
「なんでそんな噂してんのあの人たち!?」
そういえば、俺とメルドが話しているとこそこそとこちらの方を見て話してるなぁとは思っていたが、まさかそんな話をしてたのか!?
「そうか、お前ホモじゃなかったのか……」
おっさん、ニシキさんは思案顔で何か考えている。
「……大丈夫?」
「いや、俺がホモだったとしても襲わねぇよ!?」
そんな勇気ないしな。そんな勇気ないしな!
……ヘタレとか思ってんじゃねぇぞ?
「……やっぱりこの話は無かったことにする。すまなかったな、無理やり連れてきといて」
「いやいや、全然かまわな―――」
「平気」
「へ、平気っていうのは」
「別にこの人がホモじゃなくても平気」
「いや、ダメだろ?流石に娘をどこの馬の骨とも知れない男に任せるわけにはいかないぞ」
「大丈夫。この人ヘタレっぽいし」
「あ?まぁ確かにヘタレっぽいが、それでもなぁ」
「平気」
「いや、でも―――」
あの、そういうの俺がいないところで言ってもらえないですかね?
言い合い続ける父娘にそう思うがその間に入っていくタイミングを見失ってしまう。
「とにかく、私は平気。この人と冒険者する」
「いや、」
「平気」
「あ」
「平気」
「……」
「平気」
うわ、何言われても平気で押し通すつもりだこの子。
「平気だから、行こう」
「え、ちょっ、まっ!」
「お、おいティナ!?どこに行く気だ!」
「冒険者ギルド」
え、マジでこのまま行くきか!?
「な、なぁ!待ってくれティ―――」
玄関の扉を勢いよく閉め、そのまま俺の手を引いて進む女の子、ティナ。
「い、良いのか?」
「ん、良いの。お父さんもさっき許してくれた」
「あれは許したにはいるのか……?」
確かにそれっぽい事は言っていたが、あれは俺のことを(不本意だが)ホモだと思っていたからだよな?
「とにかく、良いの」
「いいのか……」
起伏の無い声でそういうティナ。
ふむ、落ち着いてみてみると確かにニシキさんの面影がある。
眠そうだけど鋭い目に黒い髪。
目元とかかなり似てるんじゃないかな?
あれだな、奥さんのおっとりとした目にニシキさんの鋭い目を足したらこんな眠そうな目になりそうだ。
髪の色はおっさん似の黒で瞳はお母さんにの蒼色だ。
かなりの美少女。いやー、緊張するね。
「ん、そういえば聞いてなかった。名前」
「あぁ、俺の名前はヨシユキ。ヨシユキ・ミヤモトっていうんだ。君の名はティナでいいんだっけ?」
「ラティナ・ドラクマ」
「ラティナか」
「ティナでいい。ヨシユキって呼ぶから」
「お、わかった」
呼び捨てか。ちょっとハードル高いけど年下だしな。後輩に接する感じでいいか。
しかしやっぱ美形だな。
美人の奥さんに渋いおじ様系のおっちゃんと、両方とも顔整ってるからなぁ。
イケメン死すべし慈悲はない。
「それで、てぃ、ティナ。ティナはどうして冒険者になりたいんだ?」
ティナん家ってかなりの金持ちだ。だから態々命の危険がある冒険者になる必要もないはず。
「………か……よか……から……」
「え?」
「かっこよかった……から……」
お、おおう?
さっきまで無表情だったのに今は顔を真っ赤にして照れてらっしゃるよ。
「昔、本で読んだ。冒険者が世界中を旅して、冒険して、色々なものに出会って。自由に生きて。それがかっこよくて、憧れたから……」
「憧れか……」
確かに、俺も冒険者になったのはあこがれが強かったのかな。
日本にいたときに呼んだラノベによく出てくる冒険者。世界中を旅して秘境を巡り。神秘に出会い仲間を増やし。
自由に、縛られずに生きていく姿。
「確かに、俺もその気持ちわかるな」
「ホント?」
「あぁ、俺も冒険者になったのはそういう憧れとかが強かったからかな」
身分証が無くてもなることができるっていう点も大きかったけどな。
「でも大丈夫なのか?」
「なにが?」
「冒険者は戦う事を生業とする職だ。ティナは見た目普通の華奢な女の子だから。戦えるのかなって」
「大丈夫。私魔法が得意」
「おぉっ、魔法が使えるのか!?」
「ふふんっ。特定の属性なら魔術まで行ける」
「おぉっ」
俺が驚いた声を上げるとティナが無い胸を反らす。
「魔術、って言うと確か中間だったよな?」
「ん、魔術は魔法、魔術、魔導の順から見て真ん中」
魔術や魔法には敵性異物と同じく位がある。
それが先ほどティナが言ってた魔法、魔術、魔導の事だ。
簡単にその三つを説明するならばこうだ。
魔法:下級
魔の法則を利用して発動する。
魔術:中級
魔を理解し術を構築し発動する。
魔導:上級
魔を先導し魔を従わせ発動する。
魔法を使えれば一人前。魔術が使えれば一流。魔導が使えれば達人。
そんな中の魔術をティナは使えると言っているが、これが本当ならかなり優秀だ。
「なぁ、今度でいいから何か教えてくれないか?」
「魔法について?」
「そうそう」
「……魔力あるの?」
「あぁ、あるぞ。少しだけど」
まぁ俺の持ってる魔力が多いのか少ないのかもわからないけど。
この世界には魔力がある人ない人があるらしい。
まぁない人の方が珍しいってくらいだが、あったとしてもほんの少しだけ。魔法を使って戦えるような人は10人に1人とか。それでも最低限の攻撃魔法が使えるっといったレベルだが。
「だったら、今度教えてあげる」
「おぉ、ありがとう」
憧れの魔法。使えるかなぁ。
スキル取っちゃえば一瞬なんだろうけど、前言ったように自力で魔法を使えるようになりたいのだ。、
「あ、ギルドが見えてきたな」
「ん」
ちょっと緊張している様子のティナ。
微笑ましくそれを眺めながらギルドの扉を開いた。
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