第7話 クラス制作の調査(中篇)
クラス制作調査の中編です。
登場人物紹介
白井雪月 広報部に仮入部として入ることになった高1の少年。見た目の幼さからよく中学生に間違えられるのが最近の悩み。
ハル 広報部の部長。まだまだ謎多き先輩。
秋月理香 生徒会長。校内から絶大な支持を得ているように見えるが…。
佐竹隼人 雪月の同級生。もともと中学生の時はサッカー部に入っていた。
人付き合いの上手さプロレベル。
時沢心 生徒会議長。やさしく穏やかな性格。秋月会長とは仲良しではあるが…。
笹井穂花 2-1クラス制作長。
??? 今回の話から登場。雪月の妹。小学4年生。
第1話→https://ncode.syosetu.com/n3821el/1/
前話→ https://ncode.syosetu.com/n3821el/6/
第7話
帰宅した雪月はお風呂につかりながら、今日の成果を振り返っていた。
「クラス制作の目的は、元々は新入生と在校生を繋ぐためのもの。それがいつからか学校の発展をするものとなった。まぁ、学校の発展をすることでその役割をするとも考えられる。明日はその発展の実態を調べるか。そうそう、元の目的を見失ってはいけないな。今回調査すべきはなぜ今年のクラス制作でこんな分担が起きてしまっているか。一昨年までは何の変化もなかったから、原因は確実に去年あるはずか。寝る前に去年のおさらいをしなければな。」
あぁ難しいことを考えると疲れるな。明日までにほんとに終わるのか。なにかひっかかることがあるけれど…。
「お兄ちゃん。明日の算数宿題教えてほしいの。」
ドアの向こう側から妹の雪乃の声がする。
「雪乃、すぐ上がるからリビングで待っていてくれるかい。」
「……わかった。すぐ来てね。」
ドアの外でタッタッタという足音が遠ざかっていくのを聞いた。とりあえず、妹の宿題を教えてから考えることにしよう。
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翌日、学校へ向かうとすでに教室には隼人の姿があった。
「おお雪月、おはよう。昨日調べてほしいって言ったやつ、出来てたんだけど渡すの忘れちゃったからさ。ごめんな、はいこれ。」
手渡されたノートには2年生の事情と書いてあった。
「ありがとう、隼人、本当に助かるよ。」
これで今日の高2への調査は捗りそうだ。今度隼人にはなんか奢らなくては。
「またなんか手伝ったほうがいいことあったらいっていいよ、みんなでやったほうが効率がいいだろうし。」
「何から何までありがとう。」
とりあえず雪月は作戦を立てることにした。
今日やるべき調査
・高2への聞き込み調査
・去年とそれ以前の違い
上は人がいる昼休みに行くのがよさそうだな。下を放課後にしよう。
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あっという間に昼休みである。おなかが空いたが、とりあえず調査をすることにしよう。
高2のフロアへ向かっているとすれ違いざまに時沢先輩が上にある高3のフロアから下りてくるのを見つける。雪月が一礼をすると、「あら雪月くん、今からどこへ向かうの。」と尋ねられた。
「今から高2のフロアに行って、今年のクラス制作の進展具合について聞いていく予定です。先輩は売店にでも行くのですか。」
そう答えると、先輩は少し悩んだ後、
「うーん、それなら決めた。雪月くん、私も同伴させてもらってもいいかい。私がいた方が君の仕事の役に立つだろうし。どうだい。」
願ってもみない申し出だ。確かに生徒会役員が傍にいてくれれば、物事がよりスムーズに進むことに違いない。
「自分としては、先輩が来てくださるのはとても嬉しいです。時沢先輩、よろしくお願いします。」
「もう、ここ先輩でいいのにな。じゃあ雪月くんさっそく行こうか。」
心強い味方が増えた。さぁ突入だ。
3階、高2のフロアに辿り着く。
「雪月くん、下調べとかはもうしているのかい。」
「はい、昨日自分の友達の隼人に高2のざっとした人物相関図をつくってもらいました。」
「人物相関図か、去年のクラス制作の作品を思い出すな。」
「いえいえ、簡単なものですよ。 …………。」
そういえば、今の時沢先輩の言葉で思い出したが去年のクラス制作では一人で学年の人物相関図を作った先輩がいたのだった。どうして自分はこのことを忘れていたのだろうか。しっかり資料も読み込んだはずなのに。
「あの、時沢先ぱ…。」
その時、時沢先輩は雪月の肩を叩き、口を開く。
「あそこにいるのが今回の2-1のクラス制作の代表となっている笹井穂花さんだ。今年もこんな感じでやってるんだね。」
2-1を見渡す限り、教室の前半分は確かに研究らしきものをやっているのだが、後ろ半分は普通に生徒たちが昼ごはんを楽しんでいる。
「今年もってことは、去年もこのような形だったんですか。」
そう聞くと時沢先輩はまぁねと呟き、若干顔をうつ向かせる。
「クラス制作をする目的、どうしてこの行事ができたかわかるかい、雪月くん。」
「はい、一応。2年生の方々が1年生の歓迎行事を行うもの、ですよね。」
その通り、というと時沢先輩は言う。それから再び先輩は話を続けていく。
「君はさ、こういう行事やってみたいと思うかな。1~2週間、場合によってはもう少し時間をかけるクラスもあるだろうけど。」
「自分はやってみたいです。せっかくそのような機会があるのなら取り組んではみたいかと。」
時沢先輩は微笑む。
「雪月くんは真面目なんだね。…。ただ、そういう人ばかりがクラスにいるとは限らないのさ。」
確かにと、納得はするがそれはどういう意味なのだろう。考えていると先ほどまで作業をしていた笹井さんは終わったのだろうか、椅子で休憩している様子がみられた。
「時沢先輩、少し話を聞いてきますね。」
とりあえず笹井さんに話しかけることにした。
「笹井先輩ですか。広報部の白井雪月といいます。話を伺っていいですか。」
そういうと笹井さんは眼鏡をかけなおして、こちらへと向き直る。
「話ですか…。なにか話せることがあれば話しますが。」
「見渡す限り、2-1のクラス制作が全員参加していないようですが、これにはなにかわけでもあるのですか。」
「これは秋月生徒会長の施策ですよ。」
施策…?そして会長の? 疑問はあるがとりあえず話の進行を続ける。
「その施策について詳しく教えてもらってもいいですか。」
「…わかりました。去年の人物相関図を作った先輩のことについて知っていますか。」
「いえ詳しくはよく知らないのですが、そういうことがあったことは知っています。」
「そうですか。それを作った人は一人の先輩でした。あの作品を作ったクラス、いやクラスというべきかはわかりませんがそこに所属していたのは秋月生徒会長がいた2-4でした。2-4は少し人物関係でいざこざがあったんですよね。よくあることです、この学年だってそういうクラスがほとんどですし。クラスの中で権力争いというと大げさかもしれませんがグループというようなものがありました。それもまた偶然2-4には高1の時にクラスのリーダーであった人がちょうど集まってしまったようで。なかなかクラス全体で活動するにはまだ難しかったんですよね。そのためにクラス制作は中々進まず、当時まだ会長ではなかった彼女も企画を進めるには中々困難だったようで。けれど期限が変わることはありません、製作物の完成は必須です。それらの混乱の中、ある一人の生徒が2年生の人物相関図を作ったそうなんです。その人物相関図はなかなか鋭いところまで書かれていて、それをみた両リーダーはいろんな面を知ることができたおかげで仲良くなったみたいですがね。」
「ありがとうございます。しかしこれがなぜ今年のような状態を生み出すことになったのでしょうか。」
雪月が本題を聞くと笹井さんは、
「私にもそこまではわかりません…。けれど私としては、いやこの学年全体的に施策には肯定的ではありますよ。やりたい人が政策に専念する方が作業効率はあがりますしね。やりたくない人に無理やりやらせるというのはやはり頼む側も嫌ですし、トラブルの素でもありますから。」
うぅむ。会長が施策を出した理由か。確かに合理的ではあるけれど。それがいいことなのか。
「そこまででいいわ。残りのことについては私が話しましょう。お疲れ様、雪月くん。」
力強い声が背後から投げかけられる。振り返ると時沢先輩の隣に秋月会長が立っていた。
「雪月くんはそのまま生徒会室にきてもらってもいいかい。なぁに、5限目の心配はしなくていい。ちゃんと担任の先生には雪月くんが5限目に出れないことを伝えておいたから。」
時沢先輩とは別れて、生徒会室へ会長と二人で向かう。時沢先輩と別れる際、彼女は何かを呟いていた。
「広報部に入るための最終試験はこれで終了だろうな。ふふっ、雪月くんはさすがだな。ハルの出した試験を楽々とこなしてしまうなんて。」
試験だったのか。やっぱり薄々感じとってはいたが、自分は試されていたようだ。
「さぁ、中に入って。」
この前は入り口での会話のみであったために、しっかりと中に入るのはこれが初めてであった。学校同様、生徒会室はとてもきれいに整頓されており、いろいろと備品から役員の趣味による私物が置かれていることまでわかる。
「どうぞ、そのソファーにでも座るといいよ。」
「ありがとうございます。」
腰を下ろすと、秋月会長は奥から二人分のコーヒーをマグカップに入れてきた。
「さぁ、飲むといい。仕事の後に飲むコーヒーはまたこれで美味しいものだ。そのマグカップは来客である生徒用のものだから気にしなくていい。」
…これはまずいぞ。
「あ、あのすみません会長。」
「どうした、雪月くん。」
はぁ、恥ずかしいが仕方ない。
「自分まだブラックは飲めなくて、ミルクもらってもいいですか。」
仕切り直しだ。
「雪月くんはブラック飲めないんだね。いや別にブラックが飲めないからって子供扱いするわけないから安心して。次来た時には、ミルクティーとか用意でもしておこうか。」
「いいですいいです。それはもういいので、早く本題に入りましょうよ。」
会長が口に含んだコーヒーを飲み終えるのを待つ。
「よしじゃあ本題に入ろうか。きっと君が聞きたいことはどうして私が今回合理化するようにしたかということだったな。去年の話のことは笹井書記から聞いたであろう。」
笹井さんは書記だったのか。まぁそれはよしとして、聞きましたと答える。
「なら話は早い。私が実際に体験した主観であるが、ただ人が少ないほうが効率的であったのだ。よく集団で物事をしようという時、私たちは役割を分担するではないか。それと同じだ。去年私たちが少人数でもやることができた以上、今年もできないわけがない。だから今年からは作る意欲のある生徒に参加してもらって参加したくない生徒には参加を強制しないという規則を予め作ったのさ。その方が意欲のない生徒を強制的に入れるよりもより効率がいいからね。」
会長の意見は一理ある。確かに正論なのだが。しかし雪月の心には違和感が残る。
「どうした、雪月くん。なにか不満のような顔をして。」
何と表現すればいいのだろうか。言葉にはできないけれどなにかもやもやしたものが残っている。
「とりあえず、お疲れ様。雪月くん、もうそろそろで5限目も終わるだろう。それまでにコーヒーを飲みほしたら、教室に戻って6限目に参加しなさい。」
「…はい。」
とりあえず今は会長が言った通り、教室に戻るとしよう。
(続く)