第6話 クラス制作の調査(前篇)
今日は連続投稿です。
登場人物紹介
白井雪月 広報部に仮入部として入ることになった高1の少年。見た目の幼さからよく中学生に間違えられるのが最近の悩み。
ハル 広報部の部長。まだまだ謎多き先輩。
秋月理香 生徒会長。校内から絶大な支持を得ているように見えるが…。
佐竹隼人 雪月の同級生。もともと中学生の時はサッカー部に入っていた。
人付き合いの上手さプロレベル。
時沢心 生徒会議長。やさしく穏やかな性格。
第1話→https://ncode.syosetu.com/n3821el/1/
前話→ https://ncode.syosetu.com/n3821el/5/
次回は明日or明後日
第6話
案外小さなことを見逃しがちなのかもしれない。一応人よりは注意力は高いようで、よくこんなことに気がつくなとか言われるのではあるが、それでもやはり見逃してしまう。
ほんのわずかなミスがあったら全ての事が失敗に終わってしまうという時は、皆集中してやるためにそこでミスが起こる可能性はほんのわずかではあるが、そういう条件がない途端に集中しているつもりでも見逃してしまうのだ。
そういう条件がないところでのミスというものは終わった後に気づくことが多いのだが、、、。
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教室に着いた雪月はさっそく資料を読み始めた。
「割と量は多いからな。簡単に重要そうな所だけピックアップしていかないと。」
放課後だからか、教室に誰もいないおかげで集中力が高まっているのを感じる。早く読み終わらせなければ。
もとより調べものが好きであった雪月は自分がわからないことがあることがとても嫌であったためにこういう作業に適していた。
眼鏡を外した頃には、もうすっかり日は暮れていた。同じ姿勢だったからか肩と腰はすっかり固まってしまっており、伸びをして体をほぐそうとする。
「もう2時間もたったのか。」
今は18時50分。最終下校時刻まで残り10分だった。
「不味いな。急がないと。」
とりあえずこの資料だけは。今日中に読み終えなければ。
雪月は屋上に向かって走り出した。
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正しさなんてものは誰にもわからないの。
人は立場によってその正しさは変容するもの。だってそうでしょ。
例えばさ、キミ。想像してみてごらん。
昼休みの売店で焼きそばパンが残り1個の状況にそれを求める二人の生徒がいるとする。
片方は友達に買ってきてほしいと言われて頼まれたから、片や一方は自分の腹を満たすために。
その生徒二人が同時に着いたのさ。キミはどうする?
友達に買ってきてほしいと頼まれた生徒にパンを売るか、自分のためにパンを買う生徒に売るのか
さぁ、どうする?
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屋上に着いた。あと少しだ。もう少し。足に再び力を込める。
「雪月くん、よく来たね。」
力を込めた足をそっと緩める。
「ハル先輩に少し聞きたいことがありまして、去年のことなんです。」
急いできたために、肩で息をしている自分を話しながら徐々に落ちつけていく。
「去年のクラス制作の展示はご存知ですよね。それぞれクラスごとに、例えば2-Aではクラス研究でこの学校の購買システムのプログラミング。2-Bでは運動場の屋上の発電プログラム。他もしていますがこれらは前年からの引き継ぎのことをしています。一昨年のも見ました。ここで僕は少しおかしさを感じました。
というのもまず、そもそもクラス制作が何のためにやっているのか気になったので調べてみると、本来のクラス制作の目的、それは新入生として学校に入学してくる高1を迎えるためのものだったんです。でもある年からそれは変わり、学校の発展をするということが目的になりました。これはいったい何故なんでしょうか。」
そう言い終えるとハル先輩はこちらを振り返った。
「1日でそこまで調べ上げるとはさすがだね。真相はあと一歩ってところかな。どうする、答えを聞くかい。答えを聞くのは簡単さ。それは数学と同じだ。そこまで導く過程を自分で考えつくのがミソだからね。」
この先輩はいつも正論を突き刺してくる。そう言われたら、こう答えるしかないのだ。
「あと1日待ってください。必ず調べてきます。」
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「君は雪月くんのことどう思うの。なんかよくわかんないけれど、あの子なんだかんだいってなんでもやりこなすタイプなのかな。突然広報部に入れられたのにもう一人前の広報部員のような立ち振る舞いだよ。」
生徒会長である秋月は隣にいる少年にそう投げかける。
「いや、俺も最近会ったばっかなので詳しいことまでは分からないけれど、彼ならしっかりこなすと思いますよ。あ、秋月先輩、君じゃなくて佐竹隼人っていいます。よろしくお願いします。」
一仕事を終えた隼人はそのように会長に返す。
「おっと、私としたことが。申し訳ないが新入生の名前と顔は一致しているので自己紹介は不要だよ。よろしく、隼人君。」
そのように会長と一年生が自己紹介を済ませていると、
「二人でなに話しているんだい、帰るよ。」
「隼人、会長とも仲良かったんだね。さすがだね。」
と言って奥からハルと雪月が帰ってきた。
「なんかこれからもこんな状況がありそうですね、会長。」
「奇遇だな、私もそう思うよ。」
雪月を中心として、なにかしらの縁が生まれていた。
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会長と隼人が電車を待っている間に雪月とハルはコンビニにむかった。
「ハル先輩。」
雪月がそう呼ぶとすでに眠そうな目をしながらハルはあいと返事をした。
「明日必ず答えを探してきます。答え合わせよろしくお願いします。」
そういうとハルは笑いながら、
「答え合わせは期待しない方がいいさ。僕が持っている答えはもしかしたら間違いなのかもしれない。常に自分で答えをはじき出し、論理的に思考して正しいものを見つけ出す。これが大事だよ。」
ハル先輩のこのセリフを聞き、雪月はその言葉を噛みしめ、はいと答えた。
「まぁ、この言葉は受け売りでもあるんだけどね。」
まったく最後の最後でこの先輩は落胆させてくれる。
「電車が来る。今日はこのくらいにしときな。また明日がんば、ふわぁぁ。」
「もうハルったら、話しながらあくびをしないの。」
また明日。明日こそ。
雪月が学校の闇に足を踏み入れたのはその日からだった。