第4話 雪月の調査簿
今回から第1章となる話が始まります。
雪月少年はどんな時でも正しさを見つめられることができるのでしょうか…。
簡単なあらすじ(1〜3)
高校生になり、新しい土地に引っ越して生活を送ることになった少年、雪月。
彼はなんかしらの意図で新しい高校で広報部という部活に入れられてしまう。
不満がありながらも仕事をこなすことにした雪月に待ち受けていた仕事とは…。
登場人物紹介
白井雪月 広報部に仮入部として入ることになった高1の少年。見た目の幼さからよく中学生に間違えられるのが最近の悩み。
ハル 広報部の部長。まだまだ謎多き先輩。
秋月理香 生徒会長。校内から絶大な支持を得ているように見えるが…。
??? 今回の話から登場。雪月の同級生。詳しくは次の話から。
次回更新は12月21日木曜の22時を予定しています。
第4話 雪月の調査簿
~白井雪月の視点~
小学校の時、新聞を書いて人前で発表を行うコンクールがあった。文章を書くこと自体はとても得意ではあるのだが、人前で話すことが苦手だったので、このコンクールはあまり楽しみではなかった。
「白井くん、今回の新聞の内容も素晴らしいね。コンクール頑張って。」
担任の先生、いやもちろん担任に限った話ではないのだが、こういう行事ごとになると生徒の気持ちをあまり考えてくれないように思える。今となってはこれも一種の社会経験だったのだなと思えるが、当時このセリフに対して苛立ちを感じたのを覚えている。なんと無責任にもこのセリフがはけることか。
不満はさておき、実際のコンクールでは予想外の質問が飛んできたことで慌てふためいた僕は散々な結果に終わった。
「内容自体はとても良いのだけれど。惜しかったね。」
あの時の審査員の残念そうな顔を思い出すと今でも人前になるとすぐあたふたしてしまう自分に後悔が残る。それから3年たった今も人前での発表には未だに慣れていないのだが。
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「何はともあれ、とんずらせずに今日もよくきたね。」
ハル先輩は昨日より増してニコニコ顔で話しかけてくる。
「で、先輩。仕事って具体的にはどういうことをすればいいのですか。」
「簡単に言えば、この学校では春に各クラス制作をするのさ。それを君が調査してくる。宣伝も広報部の仕事の一環だからね。」
部室の椅子に座りながらハル先輩は説明をしている。
「でも、まだあまりこの学校のことについて知らないんですが。そもそも僕、引っ越ししたばかりで知り合いも少ないし。」
そういうとハル先輩はハハハと笑う。
「大丈夫さ。君は十分知り合いだって出来てるし、この活動をすることで学校のことについてもわかってくるさ。やってくれるかい。」
まぁこんなことを言われて断る理由もさして見つからなかったので一応頑張ってみますと答える。
「よし、じゃあこの広報部のピンバッジを渡しておくよ。これがあるときっとスムーズにいくだろうし。健闘を祈るよ。」
こうして雪月の初めての広報部の仕事が始まった。
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自分でも不思議なくらい広報部にすんなりとはいってしまった。決して入りたかったわけではないのだが。まぁもう入ってしまったのは仕方ないと思いきるしかないだろう。
元々自分から動くことは苦手だったが、他人から任されたことに関しては一生懸命対処する方だった。たぶんこのままはいらなければ恐らく帰宅部になるというような想像は容易にできたので、そういう意味でも広報部に半ば強引に参加させられたという機会はありがたく受け取っておくべきことなのかもしれない。
「おっ、広報部の雪月じゃん。どうだった。」
今話しかけてきたのは同じクラスで、今では登下校を共にしている佐竹隼人。1番初めに話しかけてきた人だ。きっとクラスの中心にたつのだろう。
「それなりにいい先輩はいたよ。今日からクラス制作について調べなければならないみたい。」
「いいなぁ、雪月はもう部活が決まって。それに先輩からのご指名だもんな。」
ご指名というよりも、これは生徒会長の仕組んだことなのだが。わざわざ訂正することもないのでこれは聞き流した。
「そういう隼人は、部活決めてないの。」
「だって、まだ部活オリエンテーションすらやってないんだぜ。どこのクラス行っても、もう部活入ってるやつなんて雪月くらいだよ。」
そうか。小中一貫の学校だったから気づかなかったが、新しい学校に入れば春にオリエンテーションがあるのか。我ながら失策だ。
「それにしても、初めての仕事はクラス制作か。といってもこれは高校2年がやるやつだよな。」
クラス制作は先輩曰く、高2が新しく入ってきた高1を迎え入れるための伝統的な行事だそうだ。去年は、この学校の人物相関図を完成させた強者がいるクラスがあったらしく、それがものすごい反響を生んだらしい。高2だけでも200人近くいるのだが、それを完成させるとは一体どんな人だったのだろうか。気になるところである。
「雪月、ついていってもいいかい。俺も学校巡って探索したいしさ。」
人を同伴させるのがダメだという理由もないだろうから快く隼人の同伴を受け入れた。
「ならまず、2-1からだね。」
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ここが2-1のようだ。全体的にクラスの雰囲気は外から見る限りとても明るく、教壇の上にはクラスをとりしきる委員のような人が立っていた。
「確かここの委員は笹井穂花さんって人だったな。」
違和感を覚える。確かに名簿に書かれている名前は女性の名前なのに、とりしきる人は男である。
「ねぇ、隼人。この名前って明らかに女子だよね。でも教壇の上に立ってる人男子に見えないかな。」
そう隼人に言うと、隼人もそれに気づいて雪月に同意を示した。
「今日は休みなのかもしれないから、また明日きてみたらどうだい。」
隼人の考えは自分の考えと一致していたのでそうすることにした。時間の都合もあることだったので雪月達はとりあえず次へ足を運んだ。
しかし彼らがさっき覚えた違和感は、はっきりと確信できる異変へと変わった。なぜなら次の2-2、2-3は作業行う組としない組ではっきりとわかれていたからだ。
「雪月、これは明らかにおかしいぞ。クラス制作のものをクラス一丸となって作っていないのはもちろんおかしいが、かといって内部に対立している様子は見られない。いじめというわけでもなさそうだし、一体何が起きているんだ。」
雪月も一生懸命思考を働かそうとした。しかし、これらを結びつけるピースはまだ手元にないのは明らかだった。
「調べるしかない。とりあえず隼人も少し手伝ってもらってもいいかい。」
「わかった。まず高校2年の人達から直接話を聞いて見ることにするか。」
このまだ始めは小規模な事件のようなものを調べていくうちに、雪月がこの一年間でどんなことに巻き込まれていくを決めるきっかけになるとはまだ彼にはわからなかった。
雪月の環境適応力の高さはものすごいのでは…と思ったり。。 穂村