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振り回される羊  作者: 穂村
序章 雪月少年の出会いと広報部
1/17

第1話 幕開け

第2話→https://ncode.syosetu.com/n3821el/2/

はじめまして。穂村と言います。

今回、この振り回される羊という作品からこの小説家になろうに投稿してみました。

第1話から第3話までは構成的には舞台設定の説明をしています。

拙い文章ですが読んでいただけると幸いです。

 

 プロローグ 


 休み時間の終わりを告げるチャイムの音を聞きながら、自分の所属する教室に駆け戻る人の流れに逆らい、僕は屋上へと向かう。その様子を見た人々は不思議そうな視線をなげかけてはくるが、さして気に留める様子もなく、その視線に対して僕も気にすることなく足を早める。

 この一連の出来事は、もはや日常生活に溶け込んだものとなっていた。

 

 ようやく屋上のドアの前まで辿り着き、ドアノブを引いたその先には先輩が本を傍らに眠っていた。

「こういつもいつも後輩に起こされていて、先輩としての威厳はないんですか。」

 そう口ずさみながら僕が学校の購買で買ったばかりの冷えたペットボトルを先輩の首元に当てると、先輩は静電気を食らったかのようにびくりと体を震わして、ゆっくりと目を開けた。

「あぁ、おはよう。今日もいい天気だ。」

「その台詞を吐くのは基本的に朝ですよ。もう太陽はとっくに昇り切ってます。というか、いい加減屋上で寝るのやめてもらえませんか。起こしに来るのが面倒くさいです。」

 ようやく文句に応えたのか、先輩は上体を怠そうに起こす。

「僕は別にわざわざ君に起こしてほしいって頼んだわけではないけどね。」

「自分だってわざわざこんなことしたくないですよ。」

 そう、自分があの時、この先輩がいる部活に入りさえしなければこんな思いしなくて済んだのに。

 心の中で文句を言いつつ、ふと目線を挙げれば先輩がまだ寝起きでぼうっとした顔をして自分を見ていることに気付き、ため息をつく。

 ただため息をつきながらも心なしか楽しんでいる自分の姿がどこかしらに存在していて、その存在を心の中から見つけてしまう度に、先輩に毒されてるのではないかと思わず身震いしている。


 第一話  四月

 あまり新しいことが得意ではない。むしろできるだけ新しいことはしたくない。

 世間では「何事にも挑戦」、「はじめから諦めるな」というような前向きなキャッチフレーズが飛び交っているが、そんなこと言われるのはた迷惑である。確かに新しいことに挑戦しなければ自分ができることの範囲も広がっていきはしないが、だとしても自分でやること位自分で選ばしてほしい。なんでもかんでも触ればいいってものではない。そんな屁理屈をこねつつ中学校までこの姿勢を保って突き進んできた。だがそう言っていた自分も、ついに今まであまり交友関係に悩むことのなかった中学校からそういうルールが通用しない知り合いが一人も存在しない高校への入学という体験をしなければならなくなる。

「ただでさえ高校受験で仲良かった友達と一緒の学校に入ることが難しいのに、どうしてその上引っ越さなければならないのさ。」

 受験校を選ぶ際に、引越しをするからその周辺から通える高校にしなさいということを親から告げられた時、思わず声を荒らげてしまった。

 新しいことをするということが苦手な僕が、新環境で、新しい習慣をもった生活をおくる。泣きっ面に蜂。あまりの憂鬱さに胸が押しつぶされそうになりながらも受験前の期間はひたすら受験勉強を続けて、(というよりも先のことを考えたくない余りに勉強に逃げるしかなかったというのが事実ではあるが)、一応引っ越し先周辺にある志望校に通ることはできた。

 しかし志望校に入れたとはいえ、箱の中身をのぞいてみれば、高校のクラスの中には当然ながら知ってる友人はいないばかりか、むしろ周りは既に見知っているような関係なのか集団がクラス内に何個か出来上がっており、なかなか馴染めずにいた。

 (もしかしてもう出遅れてしまっていて、高校3年間ずっとこのままの生活なのか。)

 そう思うと心はどんどん気が滅入っていく一方だったが、その一週間後事態は急変することになった。

 「急変した」というと周りから見れば物凄く大袈裟な表現ではあったのだが、実際自分にとってはその表現に値する位の大きな変化があったと感じている。その変化とは1週間前ずっと教室の席で独りぼっちで座っていた状況とうってかわって、今度は頻繁に人に話しかけられるようになったというものだった。話しかけることをきっかけに少しずつ友達ができることは確かに嬉しいことだった。事実、休み時間で居心地が悪くなることもなくなり、登下校も人と話しながら帰る方が楽しかった。

 でも引っかかるのだ。この1週間自分がなにかしたわけでもないのに、なぜ急に皆が話しかけてくるようになったのか。


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 場面は変わる。

 この学校の広報部。広報部の部室の椅子にだるそうに座る自分の前に女子生徒会長の姿があった。

 「ねぇ、聞いてるの。あなたにしか頼めないことだからわざわざこの部室まで時間を割いて来てるんじゃない。いつもみたいに「あい。」とか返事してくれないかしら。」

 「あい。」

 広報部の部室に、この生徒会長はよく訪れる。

 「本当にいつも適当なんだから。私があなたに頼んだこと位はしっかり任されてよね。」

 おまけにこの生徒会長は人一倍他人に気配りするタイプで、他人の事情によく足を踏み込むタイプのようだ。

 「引っ越したきただけの子ってだけでどうしてここまで世話がやけるんだろうね。」

 ボソッとつぶやくと、「なんかいった?具体的には悪口言った?」と背後から帰ってくる。なんという地獄耳か。この生徒会長、外見は美しく成績も良いので周囲からの評価はとても高いそうだが、僕には全くその意味がわからない。

 生徒会長が部室から出て行ったのを最後まで見届けた後、とりあえず持ってきた水筒からコーヒーを注いで一休みすることにした。

 「引っ越してきた新入生をこの広報部にいれるのか。なんだか申し訳ないな。本当にいいのかな。」

 確かにクラスで注目を浴びるとしたらここは最適かもしれないけれども。それにしても本人の意思を聞かずに強引に物事を進めるやり方はあまり気が進まない。

 「まぁ、とりあえずやりますか。いざとなれば生徒会長に責任を押し付ければいいし、任された仕事を残すのは嫌いだし。」

 一人しかいない部室でいつも独り言をつぶやいているだけだったが、それがこれから2人になるかもしれないと考えるとすこし気分が高まっている自分を見つけた。


(続く)

 

 




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