赤ん坊の謎
『英雄』達は急いで赤ん坊から《モンスター》の肉を取り上げた。
当然、赤ん坊は泣き喚くが、そんな事は重要ではなかった。
何も分かっていない《モンスター》の肉を、正体不明の赤ん坊が食べたのだ。
何が起こっても不思議ではなかった。
『英雄』達が心配している中、メアリーの心配ぶりは凄まじかった。
赤ん坊に向かって「今すぐペッしなさい!ペッ」と普段の口調を忘れて赤ん坊に言い聞かせていた。
そんな様子を、レイは眼鏡を外して眺めていた。
だからこそ気付いた。赤ん坊の変化に。
赤ん坊の内蔵する魔力が、考えられないくらいに跳ね上がったのだ。
レイは光情報として魔力を見ているため、赤ん坊を直視出来なかった。
レイは思った「自分達はとんでもないものを拾って来たのではないか?」と。
レイが難しい顔をしているのを見たガルドは話しかけた。
「どうしたんだ、難しい顔して?」
「...あの子の内蔵する魔力が跳ね上がった」
「おいおい、内蔵魔力は増減しないもんじゃなかったのか?」
「その考えで合ってる。しかし、実際は...」
「とにかく、ガキを医者に診せるなりしねえとまずいだろ」
「そうだね...」
一行は予定を変更して、『連合軍』本部のあるファルシスではなく、一番近いコルトという町に向かうことにした。
「いたって健康体じゃな」
一行はコルトに着くなり診療所に駆け込み、年老いた医者に診せ、こう言われた。
「本当に何ともないのであろうな!?」
「むしろ、こんな元気な赤子は見たことないくらいなのじゃ。自分の子供を心配する気持ちは分かるが、少し落ち着いた方が良いのぅ」
「ぶ、無礼だぞ。妾はまだそんな歳ではない!」
「そっちのお嬢ちゃんは若すぎるし、お主しかおらんではないか?」
このままでは氷のオブジェが出来上がってしまいそうなので、レイが口を挟んだ。
後ろで「ミーシャは立派なレディなのです」と落ち込んでいる妖精を狼の獣人が慰めていた。
「ご老体、そのくらいにしていただきたい。我々も訳ありなのでね」
「剣聖様がおっしゃるなら仕方ないのぅ。久々の患者で、はしゃいでしもうた」
「やはり《モンスター》ですか?」
《モンスター》の出現により所得が減り、教会や医療施設を利用することが出来ない者が続出しているのだ。
「そうじゃの、あれが現れてから儂の夢は遠ざかってしもうた」
「夢ですか?」
「そうじゃ、がっぽがっぽと荒稼ぎして、若いお姉ちゃん達と優雅な隠居生活をするという夢がな...だから早くあの化け物を倒しておくれ」
女性陣は汚物を見るような視線を変態老人に向けた。
老人は身震いをし、息を乱し始めた。
「その視線は興奮するのじゃ。もっともっと...」
「氷像創造」
老人の氷像が出来上がった。
「さっさと行くぞ。これ以上は時間の無駄だ」
診療代金を払おうとレイが受付の人に話しかけた。
「いくらになりますか?」
「代金は不要だと、先生がおっしゃっていました」
「しかし...」
「これだけは勘違いして欲しくないです。普段はあんな先生ですが、《モンスター》が出現してから治療を受けられない人の為に老後に貯めていた貯金を切り崩して治療を行ってるんです。「儂に出来るのはこれくらいだからのぅ」と。」
「凄いですね。なかなか出来ることじゃない」
「はい、だからあの先生を、私は尊敬しているのです」
「僕らは、そういう人達の為に頑張らないといけませんね」
『英雄』達が改めて決心すると...
「どうじゃ、惚れた?惚れたかの?メアリーちゃんとミーシャちゃんも儂のハーレムに...」
「氷像創造」
最後の最後でぶち壊しであった。
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