意外な一面
四話目
全力で走り続けたレイとガルドは、疲労困憊という様子で道端に転がり込んだ。
「お疲れ様なのです。ミーシャは重くありませんでしたか?」
「ぜ、全然、それより《モンスター》は来てないかい?」
「はい、木の精達によるとミーシャ達と反対側に歩き始めたらしいのです」
「そ、それは良かった」
「今、疲労と傷を癒しますね」
形振り構わず走ってきたため、レイの体には小さな切り傷がいくつも付いていた。
「疲労回復、治癒」
ミーシャの手から出た淡い光がレイを優しく包み込んだ。
レイの傷はみるみる塞がっていき、棒のようになっていた足も正常な状態に回復した。
「ありがとう、ガルドの方もお願いしていいかな?」
「分かったのです」
パタパタと早足でガルドの元に向かうミーシャの様子にほっこりしながら、レイは考えていた。
奇襲する賢さ、想像以上の大きさ、圧倒的再生能力、内蔵する魔力の多さ...
《モンスター》の持つ脅威の多さにレイは溜息を吐いた。
これから今まで以上に苦労するのだろうなとレイが思っていると、ミーシャの治療を終えたガルドが話しかけてきた。
「また溜息か?」
「苦労が多そうだと思ってね。メアリーの様子は?」
「ガキと一緒に呑気に眠ってやがる。一応、ミーシャに診てもらってるぜ」
「そうか。ところであの子は一体何だと思う?」
レイはガルドに赤ん坊のことを聞いた。
《モンスター》の居る森に捨てられていたこと、いつからそこに居たのか、食料はどうしていたのか、と様々な疑問があるが、レイ達が抱いていた一番の疑問は赤ん坊の正体である。
赤ん坊の種族が分からなかったのである。
見た目が人間族であるが、レイは人間ではないと思っていた。
レイの持つ『精霊眼』は魔力等の普通は見えないものを見ることが出来る。
レイのように目などの一部分に魔力を持つ例外は居るが、基本的に人間は魔力を持っていない。
しかし、あの赤ん坊はメアリーと同等もしくはそれ以上の魔力を全身に纏っていた。
魔族、妖精族の特徴である角や羽が無いのにである。
そんな風にレイが悩んでいるとガルドはニカッと歯を剥き出しにして笑った。
「いいじゃねえかそんな事、今は《モンスター》だ」
「...そうだね」
「あれだけでかいと厄介だよな」
「僕は大きさより賢さの方が厄介だと思う。あれは考えて僕達を攻撃していた。僕達が森という視界の悪い場所に居たこと、自分の体が巨大であること、様々な要因を考慮して上空から奇襲してきたように思えるんだ」
「考え過ぎじゃねえか?」
「そうだと良いんだけど、楽観視は出来ないよ」
「そうだな、最悪の場合も考えて置かねえと足元を掬われるからな」
二人がそんな会話をしていると気絶していたメアリーが目を覚ました。
「童、童は無事か!?」
「メアリーさん、大丈夫なのです」
ミーシャは抱いていた、すやすやと眠る赤ん坊をメアリーに差し出した。
メアリーはこわれものを扱うように赤ん坊を抱き上げた。
微笑みを浮かべながら赤子を抱く、その様子はまさに母親のそれであった。
「ふふ、メアリーさん、お母さんみたいなのです」
「なっ!」
メアリーは赤面した。普段の態度からは考えられないほど可愛らしい一面を持つメアリーであった。
魔族は出生率の低さから、子供を大事にする種族である。メアリーは人一倍、母性が強かった。
その様子が可笑しくて、ガルドは当然としてレイまで吹き出した。
「貴様ら、覚えておけよ!」
そう叫ぶ声も赤ん坊を起こさないように小声であったため、さらに笑いを誘った。
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