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勇者一行の荷物持ち ~財布の紐を握ってます~

作者: yoshikei

初の短編ですが、好評なら連載します。ほかの小説も頑張って書きます…

 俺、ラニー・ラーナリーは、凄まじい力を持ち勇者と呼ばれているリシャーブ・アズキル・ハーキソン率いるパーティーの荷物持ちをしている。ちなみに、名前が女っぽいとか思うやつがいるかもしれないが、俺はちゃんとした男だ。

 俺には特殊なスキルが備わっていた。そのスキルは「無限収納」その名の通りなんでも収納し、移動し、任意の場所で取り出すことが出来る。生き物は入れることが出来ないとか、家などの大きな物は入らないとか、多少の制限はあるが、重さや大きさを気にせず持ち運ぶことが出来るのはとても便利なのである。

 また、小さな頃から商人だった親に様々な事を叩き込まれた影響により、パーティーの資金繰りも担当している。


「ラニー、次の街まであとどれくらいだ?」


 前衛で強敵と戦うとき壁として攻撃を防ぐ役目をしているジョン・アスフォル・カールがそう聞いてきた。

 俺は地図を開く。


「えっと、あと2日くらいかな。その途中で魔物が出そうな場所もあるけど」

「まだそんなに歩くの~?」


 ちっこいけど凶暴なアンナ・キーシュがそう返してくる。


「前回よりはましでしょ? 前は2週間も移動し続けたんだから」


 諭すようにローランダ・フィレイ・シュリエが言った。ローランダは支援魔法や回復魔法が得意な魔法使いだ。攻撃魔法も得意ではないにしろ、使うことができる。


「だって、ボクは疲れたよ~」

「そうだね、そろそろ休もうか」


 リシャーブの意見に賛成した俺たちは、辺りに魔物がいないかを確認してから、椅子を並べて座った。


「ラニー、なにかお菓子ない?」

「時間的にはもう少しで夕食なので、それまで我慢して欲しいところなんだけど・・・」

「え~、ボクお腹空いたよ~」

「なら、ここで夜営するか」

「さっすが!リシャーブ!良いこと言うね!」

「ラニー進み具合はどうなる? ここで夜営しても大丈夫か?」


 この辺りに魔物が出ることは少なそうだし、日程にズレが生じないかと言うことだろう。まあ、もう少し先で夜営すると思っていたため、街に着くのが少しだけ遅くなるが、問題はないだろう。


「大丈夫だよ」

「じゃあ、決定だ。少し早いが夜営の準備をするぞ」


 リシャーブの言葉に従い、夜営用のテントや机、調理器具、薪、と次々に取り出していく。

 薪を火の着きやすいように組み上げ、その回りに魔法で壁を作る。

 そして、薪に火を着け、調理を開始した。


◇◆◇◆◇◆◇


「夕食が出来たよ~」


 俺は完成した夕食を皿に盛り付けながら、みんなにそう呼び掛ける。

 すると、アンナが真っ先に皿を取りに来た。


「運ぶのは嬉しいけど、つまみ食いは止めてね?」


 そう言って釘を刺しながら、盛り付けた皿を渡す。


「うっ!・・・そ、そんなことしないよ?」


 アンナは目を逸らしながらそう言った。

 釘を刺しておいて正解だったようだ。

 すべての料理が机の上へと並べられ、全員が席に着く。


「温かいうちに、食べようか。いただきます」

「「「「いただきます!」」」」


 リシャーブの声に合わせ、全員が手を合わせ、そう言った。

 アンナががつがつと勢いよく食べ始めた。


「…さすがラニー……いつ食べても、おいしいね!」

「ありがとう。でも、食べるか喋るかのどちらかにしたほうが良いよ?」


 俺が注意すると、アンナは何もしゃべらず食べ始めた。

 まあ、これはいつものことだから、特に気にしない。


「それにしても、今日はいつもより豪華じゃないか?」


 リシャーブがそう聞いてきた。


「まあ、時間があったからね。そのせいで、いつもと同じ時間になっちゃったけど」

「いや、ご飯がおいしくなるなら、十分だよ」

「そうそう。ご飯は生活を潤すのに重要だよ」


 ローランダは茶碗を置くと、話をつづけた。


「ねぇ、ラリー、魔王を倒したら私の家で働かない?」

「あはは、まあ、その時になったら考えるよ」

「へぇ、ま、そりゃそうよね。その時が来る前に私が死ぬかもしれないし」

「ローランダは死なないよ。もちろん、ほかのみんなもね」


 俺はそう言って、笑った。


「断言できるわけではないが、死ぬかもなんて考えないほうが良いからな」

「そうだな」


 みんなリシャーブの意見に頷いていた。


  俺を除いて……


◇◆◇◆◇◆◇


 夕食を終え、今日は俺が見張りをすることになっているため、ほかの人はテントの中へと入った。


「ふぅ、気を抜きすぎているな…」


 俺はそう呟いた。

 周りに目を覚ましている人はいないため、返事が返ってくることはない。


「さて、必要なものでも作るか」


 俺は体の中へと意識を向けると、胸のあたりから一冊の本が出てきた。


「どんなスキルも使い方次第だな」


 俺は本を開くと、その中に書いてある無数の情報から必要なものを選び出し、使用した。

 すると、俺の目の前には調味料から旅で消耗した金属類など、山となって現れた。

 その中には聖水や水銀など、特殊な魔方陣を作る素材なども存在していた。


 その夜、あたりには魔術の光と、誰かの詠唱が響いていた。


◇◆◇◆◇◆◇


 日が昇り、あたりがしっかりと見渡せるほど明るくなってきたころ、


「おはよう、ラニー」


 眠そうな目を擦りながら、アンナがリシャーブと同じテントの中から出てきた。


「おはよう、アンナ。まだほかの人は寝てるから、2度寝しても大丈夫だよ」

「うん…でも、いつもの筋トレとかもやらないと……」


 アンナはそう言うと、あくびをしながら、俺から離れていった。


  そろそろ朝食の用意でもするか


 そう考えた俺はさっそく、無限収納から食材と調理器具を取り出し、料理をはじめた。

 夜中にあった小さな山は、すでに消えていた……


◇◆◇◆◇◆◇


「ボク、そろそろ体動かしたいんだけど、魔物とかいないの?」


 街への移動中、アンナがそう言った。

 周りを見渡すが、魔物の気配は一切ない。


「周りにはいないけど、もう少し先に強い魔物が出るって言ってた地域に入るから、気を付けたほうが良いよ」


 前の街で聞いた話を思い出し、回復薬を渡しながら、アンナにそう伝える。


「みんなも一応、用心しておいたほうが良いと思う」

『分かった』


 ほかのパーティーメンバーにも瓶に入った回復薬を渡していった。


「ラニーが俺たちにそう言うなんて、珍しいな」


 リシャーブがそう言った。

 俺が「そうかな?」と返すと、ジョンやローランダも


「たしかに、今までの敵で死にそうになるほど苦戦することはなかったからな」

「その影響なのかもしれませんね」


と、言った。


  まあ、こいつらのスキルのおかげで、死にそうになることは今までなかったからな。


 内心そう思いながらも、


「まあ、噂を鵜呑みにするのもよくないけど、備えあれば患いなしって言うから」


 俺は適当に流した。

 それからどのくらい経っただろうか。

 すでに昼食を食べ終えた俺たちは、街の方へとまた歩いていた。

 背中を照らしていた太陽は、すっかり頭上を通り越し、俺たちの行く手を阻むかのように顔を照らしている。


「こうもまぶしいと、歩くのもつらいな」


 ジョンは重い金属の鎧を付けているため、軽装の俺たちよりもつらいのだろう。


「ジョン、大丈夫? 支援魔法(バフ)でもかける?」


 ローランダはジョンを心配そうに見ながら、そう声をかけていた。


「大丈夫だ。それよりも、ランダは大丈夫か?」

「ええ、私は大丈夫」


 二人は数瞬見つめあい、周りに俺たちがいることに気が付いたのか、パッと目をそらした。

 決してうらやましいなどとは思っていない。

 なぜなら、俺は本来この場所にいるはずのない存在だからだ。

 また、ほかのメンバーとは違い、恋仲になったとしても、一緒の時間を過ごすことはできない。

 そのことが、俺自身のストッパーとなり、今まで色恋沙汰がなかった。


「相変わらず、二人は暑いね~」

「まさにドラゴンの炎のようだな」


 もう一組のカップルであるアンナとリシャーブが、からかい始めた。

 ちなみに、ドラゴンのいるこの世界ならではのからかい方で、一番熱いと言われるドラゴンの炎のようだ、という意味である。

 そんな他愛のない話をしていると、どこからかバッサバッサと大きな翼を動かず音がした。


「おい、どこからの音だ?」


 全員が警戒態勢になり、全方位を見渡す。


「あ! あれ!」


 ローランダが太陽を指さす。

 その方向へと目を移すと、トカゲに翼が2つついたような、巨大ななにかが見えた。


「おい、あれって…」

「ああ、たぶんそうだろう」


 ジョンとリシャーブはすでに予想がついたのだろう。


『ドラゴン……』


 全員の意見が一致した。


  やはり来たか


 ドラゴンの襲来はわかっていたこととはいえ、今の戦力では勝てる見込みもない。

 よって、誰かが犠牲にならなければならなかった。


「ど、どうしよう…」

「逃げたって、全滅するんだ、立ち向かうしかないだろ」

「立ち向かうとしても、どうすんだよ。俺は攻撃を止めるなんてこと出来ないぜ」

「ああ、わかってる。それでも、何もしないよりかはましだろう」

「なあ、どうにかして助かる方法はないのかよ。せめてアンナやローランダだけでも助けたい」

「……無理だろうな」


 そう言った時、リシャーブは俺を一瞬だけ見た。

 その考えは正しかった。


  誰かが囮になる


 そうすれば、囮以外の全員が逃げることはできるだろう。

 だが、リシャーブは初めからその考えを捨てているようだった。

 アンナやローランダは半分あきらめたかのように、下を向いて黙っていた。


「囮、必要なんだよね? やるよ」


 全員が俺の顔をハッとしたように見た。

 その中でリシャーブだけは、悲しげな表情の中に、気づかれたという驚きと、これで何とかなるかもしれないという希望が見て取れた。


「な、なにを!」


 リシャーブはすぐに表情を戻す。

 だが、俺はすぐに無限収納からお金や必ず必要になるものを取り出し、持ち運びが楽になるように工夫をしていく。


「これを持って逃げて。前の街で討伐隊が組まれるって噂があったから、戻るほうが安全だと思う」

「ラニーを囮にすることは…」


 リシャーブはそう言おうとしたが、その言葉に力はなかった。


「なるべく長くあれを引き付けるから。それに、逃げることが出来ないとも限らないしね。…出来た」


 俺はまとめ終えた袋をそれぞれに渡した。


「それぞれ働かなくても3年は過ごせるだけのお金が入っている。他にも必要なものは入れてあるから、安心していいよ。さぁ、はやく行って」

「ラニーも一緒に……」


 アンナも、俺も一緒に逃げようといった。

 だが、


「そんなことをしたら、全滅する。だから、早く行って。遅くなればなるほど、全滅の可能性が高まる」


 だが、なかなか動こうとしなかった。


「早く行け!」


 俺はそう言うと、ドラゴンの方へと走り出した。荷物持ちでも攻撃の必要もなく、筋力も特に必要のなかった俺は、逃げ足だけは早かった。よって、このパーティーで追いつける奴はいない。

 みんなは俺が走りだしたのを見ると、あきらめたように元の街がある方向へ走り出した。


「ふぅ、やっと、行ったか」


 俺は、あいつらが見えなくなることを確認すると、本を取り出して、開いた。


「さぁ、来いドラゴン、俺の休暇を奪った償いをしてもらうぞ」


 そう言いながら、本を開いた。

 その本の表紙には『森羅万象の書』と書かれていた。


◇◆◇◆◇◆◇


 後日、荷物持ちのいない勇者一行から場所を聞いた討伐隊が向かった先には、体に無数の傷と大きな穴の開いたドラゴンが倒れていたという。

 だが、その場所にラニー・ラーナリーはいなかった。

 もしかしたらラニーは、今もなおどこかのパーティーで荷物持ちをしているのかもしれない。

みなさんこんにちはyoshikeiです。

今回も最後まで読んでくださりありがとうございました。

 さて、この物語はラニーが全ての秘密を握っています。

 今まで行き当たりばったりで書いていたので、試しに短編を作ってみました。

 皆様からの反応をお待ちしております。

今後ともよろしくお願いします。

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