カルテ702 石剣のバレオン その3
「おや、珍しいですね、メダイオン付きの石製の大剣ですか?」
夫人もさっそく覗き込みに来る。
「どうする、これ? 多分すごく重いと思うぞ」
「うーん……」
二人は角突き合わせ、押し黙った。あまり体力に自信のない身としては、慎重に運ばねば大変なことになるだろう。
「一緒に動かすとするか……いっせーの!」
「うう……やはり重いですね……」
ようやく持ち上げるもおそらく数十キロはある代物と思われ、二人がかりでもゆっくり動かさねば腰が抜けそうだった。
「い……いかん、腕がもげそうだ……」
「あなた、しっかりしてください! 後少しです!」
「そ……それにしても、こんな武器を使っていたとは、どんな豪傑だったんだろうな……」
「かなりたくましい戦士だったんでしょうね……それにしても、そのメダイオン、何か表面に刻まれてませんか?」
「ん……?」
老眼の出てきた男爵は、再び剣に顔を近づける。夫人の言う通り、メダイオンはどうやらロケットなどの類ではなく、人物像を刻み込んだ一種の彫像のようだった。
「これは……女の子か!? おおっと!」
何とも奇妙な結果に彼は驚き、危うく剣を取り落としそうになった。そのメダイオンにはどうやら幼い少女の顔が掘られている様子だった。
「剣に相応しいデザインとは思えないがな……」
「あら、素敵じゃありませんか? 芸術品としても優れているようだし、きっと何か謂れがあるんですよ」
「うーむ、そうかもしれんな。ところでこの少女、確かどこかで見たような気が……」
男爵は記憶を探るも、そんなことをしているうちに腕が痺れて来たので慌てて運搬作業に集中することにした。
「それにしても奇妙な剣だな。少女剣とでも呼ぶべきか?」
「あなた、館のコレクションに加えたいだなんて言わないでちょうだいね。あそこはもう一杯なんですから」
「うっ」
考えを見透かされて、男爵は一瞬言葉に詰まった。
(しかし何故こんな石の剣なんか使っていたんだ、この人物は……?)
どうしてもその疑問は頭から離れず、彼を悩ませ続けた。




