カルテ701 石剣のバレオン その2
「しかし一体何体あるんだこりゃ……とても一日じゃ終わらんぞ」
高山には珍しい雲一つない蒼天の下、骨をかき集めていたセイブルは三十分も経たずにもう音を上げていた。久しく運動らしい運動をしたことのない腰は悲鳴を上げ、今や膝にまで痛みが生じている。樽型体型を急遽改善する必要があると、彼は切実に思った。
「あらあら、情けないですわね。まだ始まったばかりじゃありませんか」
対するコンスタン夫人は意外としっかりした足取りで、地面に転がっている枯れ木のような白骨を手早く拾い集めている。メイドや執事に頼っていたとはいえ、普段から家事もこなしており、男爵よりも数歳若い点でやや有利なのかもしれない。
「旦那様、奥様。穴がいくつか掘れたので、集まった分から持ってきて下さい!」
別荘の裏手の方からフィズリンの呼び声が響いてきたため、二人は手を止めた。現在彼女はせっせと地面に墓穴を作っており、そこに骨や鎧などを一人ずつ埋めていくという手はずになっていた。
面倒くさいし皆まとめて一緒くたにしてしまえばどうかとセイブルが提案するも、いくら亡霊騎士になっていたとはいえ、元はと言えばグルファスト王国のかつての貴族や戦士たちなのだから丁重に葬るべきだという女性陣の主張に負け、そのような仕儀と相成った。
「まあ、ひょっとしたら自分のご先祖様とかいるかもしれないしなあ……」
「そうですよ。それにまた化けて出てこられても困りますからね」
「それもそうだな。じゃあちょっと持っていくとするか……ん?」
骨を麻布に包んでいる途中で、男爵は草の影に隠れていた、奇妙な物体を見つけた。
「これは……剣、なのか?」
なんとそれは奇妙なことに、刀身に楕円形の大きなメダイオンのようなものがはめ込まれたかなり大ぶりの巨大な黒い石の剣だった。ほとんど傷らしい傷もなかったが、刀身に何やら文字が刻まれていた。
「汚れていてあまり読めんぞ……なになに、『バレオン』?」
かろうじて男爵は名前らしき部分だけを読み上げた。




