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カルテ694 怪球カマグ(前編) その82

「その後学院長はその虹色の護符を実際に人形に貼ったところ、私と瓜二つの全裸の人間体に変化したので衝撃のあまり胃の中のコーヒーが全て逆流しそうになったぞ。もはや事案どころの騒ぎじゃなくなっていたが、すぐに側にあった予備のローブを着せてくれたので、なんとかその場は収まった。

 そのドッペルゲンガーにも似た者は、すぐに言葉を私そっくりに流ちょうに話すので度肝を抜かれた。いやはや、伝説の魔女とは噂以上に恐ろしい存在だと感服したよ」


 語りながらヒュミラは窓の外に目をやる。いつしか夜が開けて朝になっていたが、北の果ての地は深夜と同じ暗さで、吹きすさぶ風の音は少しも止む気配がなかった。


「そんなこんなでひと騒動あったわけだが、その学院長お手製の人形に入魂の護符を貼って生命を吹き込んだ、私の分身とも言える奇妙な存在が、今現在私の代わりに遠く符学院で学院長付の秘書を粛々とやっている、というわけだ。これが私の二重、否、三重生活のからくりだが、何か質問はあるか?」


 もはや空になったティーカップに名残惜しそうに口づけしながら、ヒュミラが長い長い過去話を締めくくる。


「……」


 ただしずっと冷たい床に座って聞いていたケルガーは、もはやストーリーが想像の埒外過ぎて頭が追いついていなかった。


「えーっと……つまり話をまとめると、ヒュミラ団長はへパロシア本部では全身鎧着た影武者が、ロラメットではそのそっくりさんのお人形ちゃんが代理をつとめており、今目の前にいるのは紛れもなくご本人ってことか……ってややこし過ぎるわ! そんなに面倒な分身の術使う必要ないだろ! 自分がずっとザイザル共和国に行ってりゃいいじゃねえか! こんな僻地でずっと俺の監督役なんかやってる場合じゃねえだろうが! わけわかんねえようがあああああああああああああああああああああっ!」


「「「おいクソ牛野郎、考えが口からダダ洩れだぞ!」」」


 ケルガーの近くで伏せていたホーネルの三つの顔が眉間と顎にしわを寄せて抗議した。

すみませんが来週火曜日はお休みさせていただきます。次回の更新は9月5日になります。では、また!

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