カルテ693 怪球カマグ(前編) その81
「彼女は若い時からすでに頭角を現し、在学中にもかかわらず誰も作り出すことの出来なかった様々な護符を生み出し、その恐るべき才能に皆舌を巻いたものだ。そして自分が何十年かかって研究しても闇夜を目隠しでさまよう程度でひらめきの一つも得ることが不可能であったこの護符を、独自に作り出したのだ」
そこまで聞いてヒュミラもようやく完全に思い至った……符学院関係者で知らぬ者なき傑物の名を。
「ひょっとして、その人物とは、『伝説の魔女ビ・シフロール』のことですか!?」
学院長の面前にもかかわらず、いつの間にか彼女はソファから立ち上がっていた。
「ああっ、すみません! とんだ無礼なことを……」
「いや、いい。気にするな。兎に角お主の想像は正しい。この護符の送り主はまさに伝説の魔女その人だ」
「何故、そのような人がその護符を……?」
「優秀な彼女には在学中から何かと目をかけてやったが、そのお礼代わりというわけだな。自分が長年入魂の護符を開発しようとしていることを以前何かの拍子で教えたことがあったが、それをずっと覚えておったわけだ。律儀なやつであったな。まぁ、卒業時にここの教師に残るように引き留めても首を縦には振らなんだが、そのお詫びのつもりなのかもしれんがな。まったく、超貴重な護符を菓子折り代わりにしおってからに、フフっ」
「はぁ……」
思いもかけぬ大先輩のエピソードに、ヒュミラは度肝を抜かれながらも、とりあえず再び着座した。
「というわけで、話はこちらの人形につながっていくわけだ。わかるな?」
事ここに至ってようやく彼女にも話が見えてきたため再度無言で首肯する。これは別に学院長の特殊性癖の産物や呪いのアイテムの類などではなかったのだ。
「この入魂の護符を使用するのにもっとも適している物はどうやら人形らしいと附記された手紙に記されていた。それも持ち主の心が強くこもった物の方が良いのではないかとのことだ。理由はわからんがな」
「……」
ちょっとばかり背筋がゾクっとしてきたので、やっぱり事案かなあと彼女は少しばかり思った。




