カルテ692 怪球カマグ(前編) その80
それは、黒いローブをまとって長い金髪をした美しい女性の人形だった……ヒュミラそっくりの。
(どどどどどういうことだってばよ!? あれどう見てもお手製なんですけど!? ひょっとして学院長が自分で夜なべして作ったってこと!? しかも何でそんなところから出すわけ!? これってもはや事案じゃない!?)
「へへへへへへ変態っ……!?」
「まあ、待て、話を聞け」
常軌を逸するブツを目の前にして己が身を両腕で抱いて身をすくめ、もはや絶叫する一歩手前の状態のヒュミラであったが、グラマリールが人形に続けて懐から取り出した代物を一見して、思いとどまった。それは今まで見たこともない、虹色に光る奇妙な護符だった。普段のドブ色に濁った護符でないことが疑問だったが。
「まずこの護符の方から話そう。護符には自然界の現象を封じ込める物の他にも、変わった効果を持つ特殊護符と呼ばれる物が存在することは知っておろうな?」
そこはさすがにここ符学院で教鞭を取るだけはあり既知の知識であったため、彼女は軽くうなずいた。
「これは入魂の護符という貴重な物で、ただの物質に魂をもたらし、その物質をそれぞれに応じた人間へと変え、人間と同じ、否、肉体的には更に優れた機能をもたらす素晴らしい代物だ。もっとも試作品であるがな」
「こ……これは学院長殿が作成されたんですか?」
怪しげな自分そっくりの人形の件はとりあえず脇に置いておき、ヒュミラはかろうじてそう質問した。少なくともこっちの話題の方がまだマシだ。
「だとしたらどんなにか誇らしい気分であっただろうか……これを初めて見た時、世の中には真の天才という存在がいるのだと、つくづく思い知らされたものだよ」
珍しくグラマリールは大きく溜息を吐く。プライドの高い人にとって、認めるのが嫌な事実を語るのはさぞかし苦痛なのだろう。しばしの間をおいて説明は再開された。
「実はこれは符学院の卒業生が、卒業後に送ってきたものだ。学院始まって以来の英才の持ち主の女性だったがな」
「女性……!?」
ヒュミラの脳裏に、何かが閃いた。




