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カルテ685 怪球カマグ(前編) その73

「正直自分自信はニンニクの強い匂いは苦手なのであの装置を開発したのだが、コピ豆の匂いの方は好ましいのでそこまで考えたことはなかったが、なるほど原理的には同じというわけか……」


 グラマリールは一人納得し、何やらぶつぶつ呟いている。あと一押しといったところだろう。


「どうです学院長殿、こんな貧相な手土産ではご満足いただけませんでしょうか? 何でしたら後は私の、それこそ貧相な身体くらいしか追加で提供できるものはありませんが……」


 自分で言っておきながら、クラリスは平べったい我が胸を見下ろし、よもやこんな代物は交渉材料になるまいなと内心自嘲した。


「……」


 彼は銀仮面越しにちらと視線を送りながら、しばし思案している風であったが、意を決したのか居住まいを正した。


「いや、充分だ、クラリス・ルジオミール。異世界の賢者の持つはかり知れぬ知識の深淵をよくぞ惜しげもなく聞かせてくれた。それこそ、百万の軍隊を葬ることが出来るような軍事機密情報よりも価値があるものだ。こちらこそ礼を述べたい。それに……」


 芝居がかった仕草で優雅にお辞儀をしながら、彼は言葉を一旦区切り、仮面をクラリスの胸元に向けた。


「勝手に謙遜するのも大概にするがいい。お主がそのきつく巻いた晒しの下に、貧相どころか類まれなる宝の山を隠し持っていることなど、とうの昔に気づいておったわ」


「なな、なななななな!? エ……エロジジイ!」


 爆乳であることを暴露されたショックで、つい彼女は顔を赤らめ、なかば条件反射で剣を持った腕で身を守るポーズを取った。まったく、世の中を覆う被膜をいとも簡単に引きはがす、人知を超えたこの目の前の男は一体どこまで真実を見抜いているのだろう。空恐ろしいにもほどがある。


「まあまあ、今のは悪かった。そう怖い目で警戒するな。別に手を出すつもりなどないから安心しろ。そもそもそちらが妙なことを言い出すものだから、つい興が乗ってしまって言い返したにすぎん」


「フフッ」


 珍しく無敵の学院長の口調に焦りが生じたため、クラリスは緊張も秒で解けて、吹き出しそうになった。

すみませんが来週火曜日はお休みさせていただきます。次回の更新は8月1日になります。では、また!

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