カルテ682 怪球カマグ(前編) その70
(おのれ失礼極まる小便臭い小娘め、生意気にもこちらの物真似をしおってからに……だが待てよ、もし自分だったらどういう風に出題するだろうか……自分はこう見えても情け深いので、絶対相手のわからない問題は出さないのだが、ひょっとしてそれすら模倣しているとしたら……)
深く長い思索の果てに、一筋の光明が見えた。
(急げ……!)
彼は記憶を司る脳の部位を最大限に活性化させ、あの晩の彼女とのやり取りを一字一句違わず正確に思い出した。目まぐるしい速度で神経回路を情報が駆け抜けていき、脳内で火花を散らせるかのようだった。
「どうします学院長殿、降参ですか?」
「待て……まだ負けを認めたわけではないぞ……ん!?
その時、過去を見る目が何かを捕らえたらしく、うめき声がやんで静かになった。
「クラリスよ、一つ聞くが、お主はあの魔封剣の製作現場をのぞき見した夜、それについて何か説明を受けたのではないか?」
「さあ……なんのことでしょうか?」
クラリスはそらとぼけた。
「ごまかそうとするな、小娘の分際で。だがやっと真相に到達したぞ。意外と時間を食ったがな」
そう涼し気に答える学院長は、いつの間にかいつもの余裕しゃくしゃくな態度を取り戻していた。
「はあ……では、失礼ですが正解をお聞かせ願ってもよろしいですか?」
「もちろんいいとも、こわっぱめ、このザイザル共和国のロラメット符学院学院長グラマリールを試そうなどと、千年早いと思い知るがよい!」
勝ち誇ったような彼の雄叫びが夜のしじまを揺るがした。
「あの、早く答えを……」
「ビドロ製の管が刺さっていた水槽だな。あれの中の水にはガスが溶け込んでいたはずだ。お前がアリの餌にしたあの男が愛飲していた炭酸水となってな。違うか?」
急かすクラリスの台詞を遮って自信満々に学院長は宣告する。驚いたような形で固まった彼女の表情が、それが正しい答えであることを如実に物語っていた。
すみませんが来週火曜日はお休みさせていただきます。次回の更新は7月18日になります。では、また!




