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カルテ681 怪球カマグ(前編) その69

「おっしゃる通りそんなはずはありません。ちゃんと使用可能な方法があるからこそ、こうやってお話しているわけです」


「はてさて、それは本当なのか? 苦し紛れの口から出まかせに過ぎんのではないのか?」


「ご安心ください、ちゃんと符学院にある物ばかりで出来るんです。しかも、先ほどまで私がいたあの研究室に存在しました」


「!」


 思いもよらぬクラリスの隠し玉に、学院長の全身に再び動揺が走る。そのまま沈黙が来訪したが、その間彼が自身の記憶の中でどれが当てはまるのか試しているのはバレバレだった。


「まさか……アレか? いや、アレは人の手に余る……うーむ、わからん……」


 銀仮面に右手の人差し指を押し当て、塾考中のグラマリールだったが、どうやら中々苦戦している様子だった。


「あそこにあった物と言えば、鉄製のハンマーや火かき棒、レンガ造りの炉、そしてイーブルエルフの成れの果ての金属くずなどだったが、はて、その様な物が溶媒になると言うのか?」


「残念ですが、今おっしゃられたそれらのうちのどれでもありません、フフフ……」


 叡智の結晶のごとき当代最高の頭脳の持ち主相手にマウントを取れることが嬉しくて、クラリスはついほくそ笑んでしまった。何しろこんな機会は滅多にない。いつぞやの剣の材料当ての意趣返しというわけではないが、たとえ白亜の建物からの借り物の知識だとしても、仮初の優越感を心行くまで味わっておきたかった。


「ぐむむ……小癪な……」


 めずらしく賢人の苦悩が長引いている。学生たちを散々質問攻めで試してきて無知蒙昧のやからを罵倒してきた男はいざ自分が反対の立場に立たされた時、ここまで恥辱を覚えるとは思ってもいなかった。そんな経験は遥か時の彼方に捨て去ってきた過去の遺物だったから。だがこの世界の知識人の代表としては、異世界との知恵比べに負けることは断じて許されなかった。


(考えろ……もっとよく考えろ…)


 星辰の位置は徐々に回転し、時間は容赦なく過ぎ去っていった。

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