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カルテ677 怪球カマグ(前編) その65

 どこかでナイチンゲールのさえずる声が夜風に乗って聞こえてくる。愛のために競い合い、負けた方が死ぬと言われる甲高い歌声が。その甘い囁きにそそのかされるように、学院長の重い口元が動いた。


「……遥か以前、もうどれだけ昔か忘れ果てたが、自分には愛する女性がいた。名をクラリスという。物語の姫君の名前から親がとって名付けたのだ」


「!」


 クラリスの心臓が太鼓のように強打されたかに感じられ、危うく声を上げそうになった。


「その娘は金髪で美しく活発で、はっきり言えばお主と瓜二つであった。だが彼女は故あって命を落とし、我が人生の苦い傷として心に刻みつけられたのだがな。ここまで語れば充分であろう?」


「……はぁ」


 彼女は返事をしながらも、自分が何故運命神によって符学院へのスパイに選ばれたのか、今ようやく理解した。これはまさに運命だったのだ。


(……そしてこの人も、自分と同じなのだ)


 かつて彼女のことをクラリスと呼んでくれた優しい面影が、今でもすぐに眼前によみがえる。それは少しも色あせることなく、むしろ思い出すのを繰り返すことによってより一層鮮やかになっていた。そしてクラリスはその瞬間、決意した。


「わかりました、グラマリール学院長殿、あなたの望み通り、私はこの地に留まりましょう」


「おおっ、決心がついたか!」


喜びの余り一歩前に踏み出した学院長を、彼女は片手で制した。


「但し、条件があります。私は決してバルデケン皇帝陛下を裏切るわけではありません。あくまでスパイとして院内に存在することをお許しください」


「ほほう、面白いことを言うな。つまりこちらの軍門に降ることなく遇しろというのか?それはさすがに虫が良すぎないか?」


 銀仮面は再び冷静さを取り戻し、絶対的なオーラをその身にまとっていく。だが彼女も負けてはいられなかった。これは言葉による戦いだ。そしてこちらにはまだ奥の手がある。


(運命神カルフィーナよ、そして偉大なる祖国インヴェガ帝国よ、我に力を!)


 クラリスはその名前の元となった邪竜と戦う伝説の姫のごとく、暴風雨のような威圧感に対して面を上げてはっしと向かい合った。

すみませんが来週火曜日はお休みさせていただきます。次回の更新は6月27日になります。では、また!

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