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カルテ673 怪球カマグ(前編) その61

「何も驚く必要などあるまい。インヴェガ帝国側がお主のようなスパイを送り込んでくるように、こちらもいささかあちらに情報源がおってな、よって色んなことがわかるという寸法よ」


「……!」


 衝撃の連続でいつしか言葉を失っていたクラリスだったが、言われてみれば当然の対策にも思われた。常に事を構える同士、発想も同じになろうというものだ。また、球体カマグの例のように古来より戦争で敵国の捕虜になった者もおり、極まれに生きて祖国に帰った者からの情報でお互いの文化を知り、スパイを送り込む下地になったことは容易に想像できた。


「そのためわざとお主を泳がせ様子を見ておったのだが、結構ド派手にやりおったな。まさかあのセフゾンに勝つとは正直思わなかったぞ。あやつは性格はいささか歪んではおるが、我が配下の中でもかなりの実績を誇っておった猛者だ。一体どういう手を使ったのだ?」


「それは……」


 彼女は一旦言い淀んだが、どうせ現場を見ればすぐバレるに違いないと判断し、素直に話すこととした。いずれにせよ、神の如き学院長の眼力をごまかすことなど不可能なのは、今回の件で改めて身に染みて思い知らされたから。



「……というわけで、あの下品極まるクソ男は私を無理矢理犯そうとしたため、やむなく正当防衛として闘いました。彼の駆使するグンタイアリの護符に対しては、アリの嫌うというコピ豆の出がらしを全身に振りかけることによって事なきを得ました。本当は武器を磨いてツヤを出すという効果のためにとっておいたんですが、思わぬ場面で役に立ったといったところです」


「ハハハハハハっ! 大した女だな、お主は! 凄まじい創意工夫ではないか!」


 なんと普段は冷静沈着な学院長が銀仮面も吹き飛ぶかと思われるほど腹を抱えて爆笑したため、クラリスは意外の念に打たれた。しかも彼が自分を褒めたことは今までに一度もなく、敵の言葉とはわかっていても、なんだかくすぐったいような感覚に陥った。

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