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カルテ670 怪球カマグ(前編) その58

 いつの間にとりついていたのだろう、セフゾンの足に無数のアリがたかっており、上へ上へとワラワラ押し寄せていた。ちなみに足の部分も鎖鎧に守られているほどの厳重さだったが、アリは苦にもせずスイスイと昇ってくる。


「あなたは先ほど、『別に教えてやる義理はねえが、俺の服には特殊な油が塗り込んであって、それで平気の平左なわけよ。まあ、地獄行きの餞別代わりだ』と仰いました。わざわざありがとうございます。そういうことならばその服を取り除けばよい。そういうわけであなたの衣服の全てを切り裂きゴミと変えたのです。そのチェインメイルは確かに頑丈で敵の攻撃を防ぐのに効力を発揮しますが、果たして豆のように小さなアリに対しては有効でしょうか?」


「そ、それでさっき俺の背後に回って出口を塞いだってわけか! きたねえ奴め! くたばりやがれ!」


「ご明察ですが、あなたに汚いとか言われたくはありませんね。では、自分で自分の罠にかかって自滅してください。さようなら、今までどうもお世話になりました、セフゾン先輩」


「くそおおおおおおおおおおおっ!」


 会話の最中にも、鎖の隙間から続々とアリたちは侵入し、その下にあるシャツに噛みついていく。ようやく獲物にありつけた喜びからか、やけに積極的だ。


「く、来るんじゃねえ! 早くこいつを何とかしないと……」


 セフゾンは何とか鎧を脱ぎ捨てようと焦るも、しっかりと着こんだのが仇となり、中々思うようにははかどらない。そうこうする内にも、死のレギオンは着々と肌着を食い破り、皮膚へと達していた。否、もうすでに仕事の早い何匹かはとっくにその手順を超えて、更なるフェーズに移行していた。皮下組織、そして肉へと……。


「ぐがああああああああああああっ! おかーちゃーんっ!」


「なるほど、今度の絶叫は本物のようですね。それでは失礼いたします」


 鎧を脱ごうと必死にもだえながら全身から血を噴き上げる哀れな先輩を確認すると、クラリスはくるりと背を向け、扉を開けて廊下に退室した。

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