カルテ668 怪球カマグ(前編) その56
「『童貞で40代に突入したけど三度の飯よりもコーヒー好きでカフェイン中毒の俺(ジョージア太郎)が、自動販売機で見たことも無いコーヒーを買って飲んだらどういうわけか異世界に飛ばされたけど、そこではコーヒーが麻薬並みに禁止されており、しばらくは自制して暮らしていたがどうしても我慢できず、ついに闇でコーヒーを扱うギャングに入団し、コーヒー占いを得意とするカフェドゥルと、母乳を入れたコーヒーを愛飲するボニュウナレフと、魔獣の糞から取り出したコーヒー豆から作ったコーヒー好きの浣腸院飲美明とあとなんか愉快な仲間たちと一緒にコーヒーの密輸や違法栽培に手を染めていく少年漫画風熱血冒険譚でアル・カポネもびっくるするアルかもね!』っていうやつなんですけど……」
「長すぎるわあああああああああああああああああ!」
「めめたあっ!」
マッハの勢いで繰り出されたクラリスの突きで、本多の身体は診察室のベッドまですっ飛んでいき、顔面から枕に激突した。
(『でも、こういう知識って一見無駄でおばあちゃんの知恵袋以下に思えますけど、意外なところで役に立つものですよ』とは言っていたが、まさかこんなすぐに必要になるとはな……あまりにもふざけすぎていたので思わず手が出てしまったが、伊達に5千年の歴史と数々の伝説を誇っていない、という訳だな。さすがは白亜の建物、というべきか。感謝するぞ、ホンダ先生)
頭の先からつま先までコーヒーの出がらしがまとわりついたクラリスは、嵐のような医者とのやり取りを反芻しながら、もじゃもじゃ頭の医師に内心礼を述べた。彼の語った通りその効果はてきめんで、彼女の足元間際にまでたどり着いた殺人アリたちは、そこでピタっと行軍を中止し、まるで命令でも受けたように待機状態となった。
「そ、そんなバカな……一体どんな魔法を使ったっていうんだ!?」
何もわからない哀れなセフゾンはその不思議な信じられない光景を脳が受け入れず、ただただわめくばかりだった。
「……」
クラリスは黙したまま二剣を構える。機は熟した。




