カルテ667 怪球カマグ(前編) その55
「猫は自分の糞はとても臭いくせに、あんなに良い香りを嫌がるとは、贅沢な生き物だな」
つい医者のペースに乗せられて返答してしまってから、クラリスはしまったと気づいたが、時すでに遅く、つまりは後の祭りだった。
「そうなんですよー。さすがは気まぐれで気位の高いお猫様といったところでしょうか。もっとも慣れてくると平気になっちゃう猫もいるそうなので、油断はできませんけどね。ついでに付け加えるとにゃんこだけじゃなくて、虫の中にもコーヒーが苦手なものが多く、つまり虫除けにも有効なんですよー。そうやって使う分には人体には害はないですし、中々安上がりで大変お得なんですよ奥さん! 夢〇ループ!」
「わ、わかった! わかったから……」
もういいと続けようとしながら両手を前に突き出す拒絶のポーズを取るも、暴走状態の本多の口は休む間もなく言葉の一斉射撃を続行し、一切手を緩めようとはしなかった。
「まあ、後ほんのちょっとで終わりますって! で、その虫とはヨトウムシ、ネコブセンチュウ、ネキリムシ、蚊、そしてアリなどが挙げられます。例の出がらしを土の中に入れたり、火を付けて煙を出したり、直接巻いたりなど用法は種類に応じて様々ですが、知っておいて絶対損はありません。また、コーヒーそのものはアブラムシやハダニ、ナメクジ、カタツムリなどに撃退効果があると言われます。道理でナメック星人は水だけで生きていけるわけですよねーってどうでも良かったですね、またもや失礼しました!」
「……」
「でも、こういう知識って一見無駄でおばあちゃんの知恵袋以下に思えますけど、意外なところで役に立つものですよ。ちなみに僕は趣味で小説を書くんですが、実は現在執筆中のやつが、まさにコーヒーに関するものでして……興味あります?」
「欠片も無いわあああああああああああああああ!」
「まあまあ、そう言わずタイトルだけでも……では、行きますよー」
ブチ切れて牙を剥くクラリスに対しても、本多は笑顔を崩さず詩でも暗唱するように朗々と語った。




