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カルテ661 怪球カマグ(前編) その49

 セフゾンは陰険で粘着質な男だが、こと戦闘に関しては院内で一定の評価を得ていた。彼は虫系の護符を得意とすると言われ、符学院恒例の若手教員による護符の材料集めのイーブルエルフ狩りでも常に成果を上げていた。確かに普通に戦うならば厄介な相手ではある。


「……わかりました。今、そちらに行きますから、あまり手荒な真似はしないでください」


 クラリスは肩を落とし、しおらしい風を装いながら彼に降伏の意を告げた。


「おっ、結構話せるじゃねえか、かわい子ちゃん。もうちょっと手こずるかと思ったぜ。まあいいや、ウヘヘヘ」


 棚ぼた状態のセフゾンは、一瞬あっけにとられたものの、すぐに下卑た表情に戻る。口先をすぼめ、まるで口笛でも吹きそうな勢いの顔で、暗がりの中からちょいちょいと彼女に向かって手招きをする。


「よーし、いい子だからゆっくりこっちに来な、姉ちゃん。……おっと、そういや言うの忘れてたわ。その両手に握っている物騒な代物はそっちに置いて来いよ。慣れない得物持ってたら怪我するぜ……ん?」


「フンっ!」


 小声ながらも必殺の意を込めた裂ぱくの気合と共に、クラリスの両の拳たる二星が滑るように走り、熟練の剣士のごとき凄まじい突きを繰り出した。


「うおっと! 何しやがる!」


 だがそこは腐っても暗殺集団たる黒装束の一員、セフゾンは咄嗟に横にある水槽の陰に身を隠し、二振りの魔封剣による刺突は間一髪、その脇をすり抜けていった。


「あっぶねー! マジで死ぬかと思ったわ! 貴様、殺す気か!」


「ええ、もちろんそのつもりでしたが」


「眉一つ動かさない涼しい顔で答えるなよ! もちろんじゃなくてもろちんで犯してやるわ腐れアマ! まったく、ずーっと暗がりにいたせいで貴様よりも目が慣れていたのが幸いしたぜ。残念だったな」


 セフゾンはがなり立てながらも右手の甲で額の冷や汗を拭う。なるほど彼の言う通り、今の状況では相手の方に軍配が上がるのを、クラリスも認めざるを得なかった。

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