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カルテ660 怪球カマグ(前編) その48

「セフゾン先生……何故ここに!?」


 クラリスは動揺がばれないようになるべく静かな声で話すことに努めた。黒装束ことセフゾンは、嘲笑いを瞳に浮かべ、余裕綽々な態度で突っ立っている。


「何故ってそりゃあこっちの台詞だろうが、姉ちゃんよ。まあいい、特別に教えてやると、学院長殿が、ここで寝ずの番をして密かに見張ってろって俺に下知されたんだよ」


「グラマリール様が!?」


「そうよ。ひょっとしたらこの出来立てほやほやの魔法の剣を狙って忍び込む不埒なやからがいるかもしれないからってんで、餌として二本だけこうやって置いてあったってわけ。もっとも殺したりはするなってご命令だけどな。俺はまさかと思ってたかをくくっていて、別段やる気も無かったけど、炭酸水飲み放題っていうんで手を打ったのさ。まったく期待してなかったが、よもやこんな大ウサギが引っかかるとはな」


「……」


 得意気に機密事項を開陳するセフゾンを前に、クラリスは青ざめるのを隠せなかった。学院長が察していたとなると、ただごとではない。符学院からの脱出は極めて困難となるだろうことが予想された。


「どうした、怯え切って声も無いのか。まあ、お前さんがどういう事情があってこんな馬鹿な真似をしたのか俺は別に何の興味もないし知りたくもねえが、大人しく抵抗しなければ命まで取ろうとは思わねえから安心しな。ただ、ちょっとばかり俺と楽しいことはしてもらうがね、ケケケ」


 黒覆面から覗くセフゾンの両眼が三日月のような形に歪み、卑猥な色を帯びる。クラリスは咄嗟に思い出した。セフゾンはやけにいやらしい粘着質な目で女性を眺めることに定評があり、学内で嫌われているという噂を。


「残念ですがお断りします。私は先を急ぎますので」


「へえ、まさか十年以上ここで働いている俺様に、貴様のようなぽっと出の餓鬼が勝てるとでも思っているのか?ケケッ」


 蛇のような瞳でクラリスをなめ回しながら、セフゾンが再び奇妙な声で笑う。彼女は悟った。彼が大声をあげて彼女の犯罪行為を告げ、応援を呼ばないのは、この場で彼女を一人で凌辱したいがためだ。ならばそこにこそ勝機がある!

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