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カルテ659 怪球カマグ(前編) その47

 クラリスの前方に見える部屋の奥の壁に、不用心にも二振りの細い剣が無造作に立てかけてあった。これぞ、ここ数日符学院の宿舎の者たちを悩ませていた、毎晩の騒音の元凶に間違いない。どちらの刀身も灯りを受けてにぶく輝き、天空に光る双子星のようにひっそりと寄り添い合っていた。


(慌てるな……落ち着け……落ち着け……他には何かないか……?)


 彼女ははやる心を抑えながら注意深く辺りを見回すも、器具や護符の類いはあちこちにいくつか置いてあるのが見受けられたが、この剣以上に価値のある物はお目にかかれなかった。


(確かあの時この場所で学長はこう言っていたな……。『まだまだ未知数なところは多いが、今のところは五種類ほどの魔封剣が完成するのではないかと思われる。具体的にはそれぞれ、炎・水・風・雷・氷となりそうだ』これがその魔封剣か……)


 彼女の脳内に銀仮面の発した言葉が再生される。つまり本来ならばここに魔封剣は五振り存在するはずだが、他の三本はどうしたのだろう。まだ製作途中だったのか?


(侵入するのが少しばかり早かったか? まあいい、同時に剣を大量に持っていくのは難しかったかもしれないし、二振りもあれば皇帝陛下にもお喜びいただけるだろう)


 クラリスはそう自分に言い聞かせると、足音を忍ばせて奥へと進み、すばやく二本の魔剣を手に取ると、反転して出口へと向かおうとした。長居は無用である。


「おーい、新入り、泥棒はよくねーぞ。親に教わらなかったか?」


「!」


 突如室内の物陰から聞き知った野太い声が響いたため、彼女は歩みを止め、危うく剣を取り落としそうになった。急激に動悸が激しくなり、音が室内中に反響するかに思われた。


「わりいわりい、驚かすつもりはなかったんだが……って犯罪者相手に言う台詞でもねーか」


 大きな水槽の裏からのっそりと出てきたのは、以前まさにその水槽の水を彼女に組んでくれと要求した、あの黒装束の男だった。

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