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カルテ635 怪球カマグ(前編) その23

「何か自分でもこうなった思い当たる理由はありませんか? 日々の重荷でも悩みでもなんでもいいですよ。結構肉体的症状は精神状態から来ることもありますからね~」


「さあ……最初は慣れない土地に来たせいかとも考えたが、さすがにもう1年以上はいるので、次第になじんできたとは思うんだが……」


 彼女は首を捻って熟考するも、中々そう簡単に出てこない。ここロラメットの符学院に来てわずか半年足らずで学院長に気に入られ、直属の部下に抜擢されるのは予想外ではあったが、よく叱られることはあっても別段ストレスに感じるほどではなかった。思慮不足の出来損ないの新人という自分の被るペルソナも、最近は演じるのがちょっと面白くなってきたほどだ。


 もっとも人に言えないことなので、それが原因と言われればそうかもしれないが、そのような機密事項をこんな見るからに口が軽そうな初対面の怪しげ男になんぞ、簡単には打ち明けられない。油断は禁物だ。


「うーん、ちょっと決め手に欠けますね。質問を変えましょうか。お昼寝をいっぱいしちゃったり、お風呂にあまり入ってないってことはないですか? あと、運動をほとんどしないとか」


「失礼な! 日中は日常業務で忙しくて、昼休みだってろくに取れないくらいだ。入浴は一日おきにはしているし、運動は得意で頻繁にトレーニングを行なっているぞ!」


 立腹した彼女は、思わず椅子から立ちあがっていた。勢いで、このまま帰ってしまってもいいのではないかという気がしたくらいだ。本当の彼女はペルソナ人格の百倍怒りやすかった。


「おおっと、ごめんなさいね~。別に怠け者さんかどうかを尋ねたわけじゃなくって、全ては不眠の原因だから聞いただけなんですよ。昼夜逆転生活って人もかなりいますからね。しかしどうやら違いそうですな。うーん……」


 本多は絶対こいつ心の中では欠片も謝っていないだろうというような顔のまま、顎に手を当て唸りだした。何か引っかかっていることがあるのだろうか。

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