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カルテ634 怪球カマグ(前編) その22

「さて、セッ……エックスさん、どういったことでお困りなんですか?」


「今なんか言いかけなかったか?」


「えっ? 気のせいじゃないですか?」


「……まあ、いい。聞かなかったことにしておいてやろう」


 彼女は深呼吸を一つして、寛大な慈悲の心を発動させ、気持ちを落ち着かせた。この調子だと夜が明けてしまう。一見気丈に見えるが、もはや藁にも縋る思いで日々を過ごしてきたのだ。そんな時に伝説の白亜の建物が目の前に顕現し、何かに突き動かされるかのように無意識にドアを潜っていた。せっかく訪れたのならば、目的は果たさねばならない。


「実は少し前からあまり眠れなくなり、仕方が無いのでこうやって夜間ブラブラうろついていることが多くなった。ついでにめまいもするようになり、更には動悸や吐き気まで起こるようになったのだ」


 彼女は正直に自分の症状を伝えた。直前までにやけていた本多の目がスゥッと糸のようになる。


「ほほう、それは大変でしたね。食事はちゃんと食べていますか?」


「何とか三食食べている。ここは学食があり、人前で食べることが多いし、教師として恥ずかしい姿を見せるわけにはいかないのでな。実際に吐いたりはしていないが。ただ……」


「ただ?」


「……」


 一旦彼女は口を閉ざすも、本多の促しと眼差しで、まるでこじ開けられるかのように開口した。


「ただ、ここの食事は自分の出身地であるグルファスト王国とはだいぶ味付けや食材が異なっていて、あまり好みではないのだ。これはこうなる以前からだがな」


「おおっと、そいつは気持ちはよーくわかりますよ。僕も旅行で海外に行った時は、いくら『紅茶』を頼んでも、わけのわからないゲロマズ濃厚のドロドロの液体が出てきて涙をのんだことか……ああ、やっぱり我が家が一番!」


「……お前は一体何を言ってるんだ?」


 彼女の本多を伺う視線は早くも懐疑と嫌悪の色を深めていった……もっとも白亜の建物に来院した者共通の初期の現象ではあるが。

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