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カルテ632 怪球カマグ(前編) その20

「着いたか……」


 いつの間にか彼女は学院の外れの方まで来ていた。ここは符学院の建つ高台の端っこの広場で周囲には茂みも多く、その先は切り立った崖となっていた。眼下には寝静まったロラメットの街並みが一望出来、つまりは絶好の夜景スポットだった。もっともだいぶ時間も遅いためか街の大半は闇の中に沈んでおり、蛍のように輝く明かりもごくわずかであった。


「ここまで来れば気分も晴れるかと考えたんだが、もう少し早い時間に来ないと駄目だったかな? することもあるし……」


 ついつい愚痴をつぶやいてしまう。もっともこの場所は学生たちにも人気があるため、タイミングを誤るとあいびき中のバカップルに出くわす恐れもあり、匙加減が難しいところだった。だが、せっかく訪れたのだから元は取ろうと考え直し、彼女は端の方まで接近し、仁王立ちする。暗がりの中、酔っぱらいの声すらせず聞こえるのは虫の鳴き声のみで、寝静まった街は平和そのものだった。


「まったくのんきなものだな。脅威に脅かされているとも知らずに」


 あまりの天下泰平ぶりに思わず苦情の一つも申し立てたくなってきたが、そんなことをしても何もならないと気づき、口をつぐんだ。彼女には秘密の任務があった。それを人に知られるわけにはいかない。こんな開けた場所では誰が聞いているかわかったものではなかった。


(もっともそれを他人に話すことが出来ないせいで、眠れなくなったり、色々なことが起こっているのか……?)


 ぞろりと不安の虫が頭をもたげる。またもやめまいと動悸が身をさいなむ感覚に襲われ、思わずその場にしゃがみこみたくなってきた。目の前の深淵が口を開け、おいでおいでをしているような気分になる。彼女の先には柵などなく、絶壁から落ちたらそれっきりだ。ちなみにここは試験で成績の悪かった学生たちにとっても別の意味で人気スポットとなっていたので、そのようなやからは近づかないよう教員たちが口うるさく注意していた。


「長くここにいるとまずいな。行くとするか……ん!?」


 きびすを返そうとした彼女は、そこで信じられないものを目視した……闇夜に純白に光り輝く、四角の建物を。

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