カルテ630 怪球カマグ(前編) その18
「このガス、つまり気体は石灰石を焼いて発生することから発見されたが、後に木や木炭を焼いても生じる事がわかった。そして大気中にも含まれており、今では固定空気と呼ばれておる。その使い道はまだ未知数だが、先にこやつが述べた通り、水や酒などの飲み物に刺激を加える効果があり、他にも役立つ方法があるのではないかと探しておる最中だ」
学院長の説明はやや難解な点があるものの清流のようによどみなく、聞く者の耳に心地よく響いた。
「学院長様、恐れながら質問です! 気体とはどういったものなんでしょうか?」
「そこからか……」
部下の女性の挙手によって講義を中断されたグラマリールは額に手を当てるも、説明を続けた。
「よいか、この世の物質は皆気体、液体、個体の三相からなることが最近の研究結果から判明してきた。つまり、温度を上げることによって塊の固体から水のように流動性を持った液体、そして大気のように目に見えないが空間を満たす気体へと変化していくわけだ。例えば氷に熱を加えることによって水となり、更には沸騰して蒸気へと変化するようにな。だが、他に圧力も関係していることがわかってきた」
「?」
「またわかってない顔をしているな。ガスを集めたフラスコ内に圧力の護符などを使用して強い圧を加えると、なんと温度を下げなくても液体に近い状態に変化することが実験より導き出された。それは気体と液体の中間のような性質を持つ存在で、様々な物を溶かす不思議な作用があった。まだ研究の段階ではあるが、どうやらニンニクの臭いの成分を溶解し、分離することが可能らしい」
「えっ……私あの臭いって刺激的で割と好きなんですけど」
「もてなくなるぞ、姉ちゃん!」と水を受け取った男が脇から突っ込む。
「まあそんなものは余技に過ぎないが、要はあらゆる物質を溶かすことの出来るものが真に存在するとなれば、それは無敵の武器となるであろう。研究の意味がわかったか?」
「はいっ!」
正直理解が難しい点が多かったが、これ以上学院長の機嫌を損ねないため、即彼女はうなずかざるを得なかった。
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