カルテ624 怪球カマグ(前編) その12
「すすすすすみません! 夜中の物音が気になって、つい確認しに来てしまいました! どうかお許しを!」
彼女は正直に事情を説明し許しを乞うた。学院長の前で下手な小細工など無意味なことだからだ。
「やれやれ、そんなことか。まあ貴様には特に話してなかったしな。だがいい機会だ。そこで少し見学していくといい」
グラマリールは再び鎚をふるいながらも、開いている手で作業場の一画を指し示した。
「ありがとうございます! ですが……これは一体何をされているところですか?」
「見てわからんか、剣を作っている真っ最中だ。ちなみに今やっているのは素延べといってこうやって熱を加えながら打ち、剣の形を整えている工程だ。まったく暑くてかなわんわ」
「はっ、ただいま!」
慌てて手すきの黒装束が駆け寄ると、タオルで学院長の額を拭った。
「剣……ですか? でも何故符学院でそんな武器なんか……鍛冶屋さんにでもジョブチェンジされるおつもりですか?」
「フフン、貴様ごときにわからぬのも無理はない。確かに護符魔法で戦う我ら護符師にとってはそのような武器などあまり縁のないものだからな。だが、わざわざ自分がそこらの鍛冶屋の真似事をして普通の武器なんぞを作ると思うか? 貴様の目は節穴か?」
グラマリールはよく学生や教員を試すような口の利き方をすることで有名だ。そして答えられなかった者には容赦なく罵声を浴びせ、蔑視する。彼女は突如自分が追い詰められた獣と化し、周囲が罠だらけとなったように感じおぞけ立った。
(どうしよう……皆目見当がつかない……でも、学院長は絶対わからない問題は出さないとも言われている……何かヒントがあるはずだ……何か……)
彼女はその場から回れ右して逃げ出したくなる衝動を必死に抑え込みつつ、一筋の毛も見逃すまいと、周囲に最大限の注意を払った。一度注意して見ると、炉の明りによって辺りに転がっている様々な物が、先ほどは気づかなかったのに一つ一つ視界に飛び込んでくる。そして部屋の片隅に、彼女は以前見かけた物を発見し、危うく再び叫びそうになった。




