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カルテ623 怪球カマグ(前編) その11

 この秘密扉のことは符学院の教師になった者にだけ教えられていた。そこには学院の負の歴史にまつわる物が眠っていた。例えば黒覆面たちが苦労して運んできたハイ・イーブルエルフの死体はそこで皮を剥がれ護符へと加工された。中には生きたまま連れられてきた個体もおり、様々な護符を作るための人体実験に使用されているという。作成にかかわらない教師たちはその存在をおそれ、伏魔殿と密かに呼んでいた。


(結構広いわね……)


 地下通路を進みながら彼女は周囲をうかがった。実はここに来るのは今晩が初めてであり、かなり緊張していた。心臓が立てるドクンドクンという鼓動音が外に漏れ出そうな気がするほど不安が強く、なんとなく腹痛まで生じてきた。だがそれでもトイレのある上層に即戻るわけにはいかない。そんなことをすればそれこそ末代までのドジっ子扱いは確定である。


「フンッ!」


 彼女は丹田に力を入れ、気合で不調を吹き飛ばすと、捜索を続け、前進した。やがて通路は大きな両扉の前で突き当りとなり途切れる。物音は正にその扉の向こう側から聞こえていた。


(行くしかなさそうね……)


 意を決した彼女は弱気の虫を振り払い、扉に手を掛ける。別に鍵はかかっておらず、素直に道は開けた。


「えっ!?」


 思わず声が漏れ出たのも無理はない。そこはムンムンとした熱気に包まれた、広い空間だった。各種ハンマーや火かき棒、その他様々な用途の知れない道具が雑然と置かれていた。そこかしこに黒装束がおり、何らかの作業を行っている。四方の壁には松明が立てられているがそれ以上に、部屋の真ん中にある赤いレンガ造りの大きな炉からは光と熱が溢れかえらんばかりに発され、昼間のように明るかった。そしてその前に黒ずんだ金床が置かれ、黒装束の者によって固定された真っ赤に焼けた金属の棒を学院長自らが鍛冶屋のように鎚を振るい、規則的に叩いていた。


「何奴!?」


 一心不乱に作業に没頭していた学院長だったが、時ならぬ声に反応して振り向く。銀仮面のため表情はわからなかったが、汗がその辺縁を伝い滴り落ちていた。


「……なんだ、貴様か。何故こんな場所にいる? 何か用事でもあったのか?」


 だが侵入者が彼女だと気づくとすぐにいつもの冷静さを取り戻し、傲岸不遜な態度で矢継ぎ早に問いただした。

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