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カルテ621 怪球カマグ(前編) その9

 その後、どぶ色の護符より飛び出した伝書鳩によって急遽応援にかけつけた黒覆面群団の手によって、球体の力で銀と化したものは、もれなく符学院まで運び出された(もちろん例の部下も手伝った)。学院長が予想した通りかなりの日数を要する結果となったが、何とか無事やりおおせた時は一同心の底から喜び、労をねぎらいあった。


 何しろ一つ一つの彫像は生身だった時よりも更に重量を増し、しかもそんな大荷物を抱えて隠れ里から道なき道を通ってはるばるロラメットまで極秘裏に至るのは、地獄の責め苦よりもひどい難行苦行であったのだ。


「一体全体何だってこんなことをしなくちゃいけないんだ? いくら値打ちがありそうだからって運搬代と相殺するぞ! お前、学院長殿のお気に入りなんだろ? 何か聞いてないのかよ?」


 荷物を背負いながら汗だくになって林の中を歩いていた一人の黒装束の男が一旦足を止めて振り向くと、後ろにいるかの部下に尋ねた。


「いいえ、私は何も知りませんが……学院長殿はそこまで自分を信用なさっているわけではなさそうですし……しかし暑いですね。これ、ちょっとだけ脱いでもいいですか?」


 部下も額からとめどなくしたたり落ちる汗に顔をしかめ、黒覆面を一気に引きはがした。たちまち長い金髪が覆面の下から流れ落ち、あたかも蕾が鮮やかに花開くように、目の覚めるような麗しい美女のかんばせが出現する。そう、学院長の部下は年若い女性だったのだ。


「そうか……ま、智謀にたけたグラマリール様の深淵なるお考えなど我々下々の者にわかるわけがないしな。あー、冷たい水を心行くまで飲みたいぜ」


 黒覆面男は首を前に戻すと、また草の生い茂った道を歩き始めた。その背中を見るとはなしに眺めながら、部下も学院長の思考をトレースしてみようと試みた。


(おそらく球体カマグの銀化の効果の資料として持ち帰るんだろうけど、他に何か意味があるのか……? うーん、何も思いつかない……)


 彼女も下手な考え休むに似たりと気づき、それ以上は踏み込むのを止めた。だが、並ぶ者無き偉大なるグラマリールの思惑は、彼女の想像のはるか斜め上にあった。

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