カルテ620 怪球カマグ(前編) その8
「長年銀を肌身離さず装着している自分自身が断じるのだから間違いない。これはひょっとしたら未知の物質かもしれん」
そう呟きながら学院長はもはや彼の顔面と同化しているかのような銀の仮面に指を這わせ、反対側の手で接している銀の像との触感を比較していた。
「じゃあ、ハイ・イーブルエルフの像はおろか、ここに大量に転がっている銀のカミナリ鳥も、全部偽物ってことですか!? せっかく労せずして大金をせしめたと喜んでいたのに……もう一生仕事しないで済むと思っていたのに……こんな歩く錬金術みたいなモンスター、多分もう二度とお目にかかれないのに……あああああああああああ!」
「貴様、そんなことを考えていたのか。意外と将来大物になりそうだな。しかしな……」
大げさに肩を落としてわかりやすく落ち込む部下を見て、あきれ果てた様子のグラマリールだったが、急に何か天啓が降りてきたのか、口を閉ざして思索にふけった。
「しかし、別に何も落胆することはないぞ。こいつは使いようによっては銀をも超えた価値を内に秘めておるやもしれん。ま、試してみなければわからんがな。貴様の言う通り、あれは錬金術以上の存在だ。今日はよく働いてくれたし、珍しい発見もあったので、銀塊とはいかんが褒美をはずんでやるとしよう」
「どどどどどうされたんですかグラマリール学院長殿!? 何か変な物でも食べたんですか!? それとも脳が何者かに乗っ取られたんですか!?」
常ならぬ優しいいたわりの言葉に逆に怯えた部下は、ザイザル共和国の最高権力者に向かって失言を連発した。
「今日は朝から貴様と同じ物しか食べておらんし乗っ取られた覚えもないわ! やっぱり褒美なんぞ貴様にやる必要はなさそうだな」
「すすすすすすすみません並ぶ者無き学院長殿! どうかお許しを!」
「……まあ、この後貴様には馬車馬のごとく死ぬほど働いてもらうことになるのは決定事項だからして、その後で再考することとしよう」
「えっ、後はもう学院に戻るだけじゃないんですか?」
「何を言うか馬鹿者、ここにある全ての銀の彫像および銀のカミナリ鳥を一切合切資料として持ち帰れ。何日かかるかわからんがな」
「ええええええええええええええええ!?」
抜けるような青空の下、悲痛な叫びが天地を貫いて木霊した。




