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カルテ619 怪球カマグ(前編) その7

 かくして銀化の魔獣と符学院御一行様とのつかの間の接触は幕を閉じた。謎の球体はそのまま空の彼方に行方をくらまし、学院長とその頼りない部下は、住民の消滅したハイ・イーブルエルフの集落に取り残された。


「フーッ、死ぬかと思って冷や冷やしましたよ。ああいうタコやイカ系の触手って昔から苦手なんですよね。何考えてるのかわからない感が強いし……」


 部下は覆面の隙間から覗く目を瞬かせ、恐るべき敵が消えた天の一角を見つめた。


「静かにせんか、痴れ者め。貴様はこの周囲が先ほどとは変化していることに気づかんのか?」


「へ?」


 上司に指摘され、部下は神経を集中させる。もはや滅びるのみと定められた村には、何事も無かったかのように、虫のピョンピョン飛び回る姿や衣擦れにも似た鳥の羽音がいつの間にか戻ってきていた。一切の生を否定する死神のごとき大怪球が立ち去ったのを、小動物たちは野生の勘とやらで鋭敏に察知したのだろう。


「なるほど……どうりで今までやけに静かだったわけですね。しかし本当に驚きました。あんな神話にもいない化け物とこんなド田舎で鉢合わせするなんて想定外でしたからね」


「ここのゴミ虫どもも、まさかこんな哀れな姿になるとは微塵も考えていなかっただろうな。皆、戦闘用の恰好をしておらず、普段の姿で凍りついておる。おそらく蹂躙はごく短時間だったのであろう……ん?」


 手近なところに立っている、驚愕の表情で固まっているハイ・イーブルエルフの女性の像を何気なく拳でコツンと小突いていたグラマリールだったが、何かに気づいたのか、突然動きを止めた。


「手でも怪我しましたか? 唾つけておけばいいですよ」


「違うわ阿呆が。どうもこの金属、一見銀に見えたが、どうやらそうではなさそうだ。手触りや温度、そして硬度もおそらく異なるだろう」


「ええっ、何故そこまでわかるんですか?」


「貴様の目は節穴か?」


「ああ……」


 そう吐き捨てるように言う上司の顔を伺って、ようやく愚かな部下は閃いた。そこにはグラマリール学院長の代名詞とも言うべき銀の仮面が日の光を受けて輝いていた。

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