カルテ612 牡牛の刑(後編) その63
(どういうことだ? ヒュミラ団長の言葉が本当ならば、あの発情した蛍みたいに光る刀は邪悪なハイ・イーブルエルフどもとなんらかの関係があるってことになるが、似ても似つかないぞ! 別に革製品ってわけでもないし……確かに刺青っていうか刻印はあるが……うーむ、わからん)
必死に無い知恵を絞っていたケルガーだったが、一方、ヒュミラの説明を聞いたホーネルの方は、急に貧血を起こしたかのように青ざめ、全身の毛を逆立てていた。
「おっ、何か気づいたってのかい、童貞パイセン?」
異変を察知したケルガーの叩く軽口にも反応せず、一見獰猛なケルベロスは、ブルブルと身体を震わせ、沈黙するのみだった。
「ほほう、どうやら元副団長殿の方は気づいたようだな、この魔封剣のおぞましい秘密に」
難問の出題者は、解答者が禁断の扉を開けたショックで固まる様を見て満足そうに悪魔的な微笑みを浮かべた。
「ど、どういうことだよ、おぞましい秘密ってのは!? 別段そんな怪しげな物には見えないけどよ」
「もっと頭を使わないと早くボケるぞ、ケルガーよ。いいか、ホーネルとお前との違いは一体なんだ?」
「そりゃ童貞と非童貞で……」
「一旦そこから離れろ! お前たち二人は二回も戦ったのだろう? その時に何が起こった!?」
「え……?」
突如瓦礫と化した魔獣創造施設が脳裏に鮮やかによみがえる。鉄仮面を被った美しき魔獣と化したエリザス。降り注ぐ紫色の毒の雨。メデューサの魔眼の力で瞬時に石像と化したケルベロス。どんよりした空を舞う青色と銀色の二頭の魔竜。突き付けられた選択と苦渋の決断の末、一人去っていく最愛の想い人……。
「うぐっ!」
辛いトラウマのフラッシュバックにケルガーは思わずうつむきかけるも、ようやく一つ閃いたことがあった。
「もしかして……もしかしてだけど、石化のことか?」
「ほほう、よくそこに辿り着いたな。さて、私は先ほどの戦闘後に、お前たちに告げたはずだ。『我々は史上最強の怪物と戦わねばならないんだぞ……』とな」
「そ、それってまさか……」
隣のケルベロス同様、ミノタウロスも恐怖で固まった。




