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カルテ610 牡牛の刑(後編) その61

「「「表に出ろ、牛野郎! クソまずい飯を食わせた恨みを晴らさせてもらうわ! リターンマッチだ!」」」


「美味しかったって言ったばかりじゃねえかよ! 舌の根も乾かないってのはこのことか? そんな要らない舌も三つ切り取ってタンシチューにしてやろうか?」


 食事そっちのけで再びにらみ合う両者だったが、ヒュミラはといえば素知らぬ顔で優雅に食後のデザートの果物の皮を剥いている。いざつかみかからんとしたケルベロスとミノタウロスだったが、急に電気が走ったように二匹とも身体が動かなくなった。


「やれやれ、忘れたのか脳筋ども。お前たちはそれぞれ帝国軍人に戻ったわけだから、魔獣であるためお互いを攻撃できない、というわけだ。以後くだらん喧嘩は慎むがいい、愚か者め!」


「あっ、そうか! つーわけで残念だけど今後とも仲良くしようぜパイセン! まあ、尻尾の件は冗談でちゃんとした豚肉使ってあるから安心してくれ」


「「「嘘だったのかよおおおおおおお!?」」」


 もはや涙目状態のケルベロスは、崩れるように床に突っ伏した。


「で、夕食も一段落したところで、そろそろ任務とやらを教えてくれよ、団長殿。なんでも最強の怪物を倒すって話だったけど、何のためだよ?」


「その前にこれの由来を知っているか、ケルガー?」


 謎の固そうな果物を脇に置いたヒュミラが、コートのポケットから見慣れた札を取り出す。


「それって護符だろ? 由来といってもエビリファイ連合のザイザル共和国にあるロラメットの符学院でのみ作成されているってことなら聞いたことはあるけどよ」


「相変わらず薄っぺらい情報だな。確かにその通りではあるが、私が言っているのはもっと深い内容だ。これの原材料は、ハイ・イーブルエルフの生皮だ。魔法を自由に使う種族の皮を使用することで、同じ力を引き出すことが出来る、という理屈らしい。もっとも一部の者しか知らない秘中の秘だがな」


「ええええええええええええ!? そーなの!?」


 突如衝撃の事実を明かされて、ミノタウロスのやわなハートは分厚い胸壁を突き破って浮遊しそうになった。


「それを踏まえれば、私の言いたいことがわかるな?」


 彼女はスラっと腰の獲物を抜き放った……宝刀・ハラヴェンを。

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